研究課題/領域番号 |
16K18981
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
東 森生 自治医科大学, 医学部, 助教 (90709643)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 下垂体前葉 / 性腺刺激ホルモン / 細胞外マトリックス / 基底膜 / ラミニン / インテグリン |
研究実績の概要 |
基底膜や線維性コラーゲンに代表される細胞外マトリックスは、特異的受容体を介して細胞機能を調節する。研究代表者は下垂体前葉の内分泌細胞が周囲の細胞外マトリックスと接することに着目し、前葉細胞の培養実験で基底膜成分ラミニンが性腺刺激ホルモンの分泌を促す現象を見出した。平成28年度ではラット下垂体前葉に発現するラミニン受容体を免疫組織化学的手法により調べた。 インテグリンは代表的な細胞外マトリックス受容体であり、α鎖とβ鎖がヘテロ二量体を形成して機能する。ラミニン受容体となるインテグリンα鎖とβ鎖の組み合わせはα3β1、α6β1、α7β1、α6β4である。ラットの性腺刺激ホルモン産生細胞において、インテグリンα3鎖とβ1鎖が発現することがわかった。また、研究の過程でインテグリンα6鎖が濾胞星状細胞と血管内皮細胞に発現することを見出し、ラミニンとの結合能力において内分泌細胞とは異なることが示唆された。さらに、イムノグロブリンスーパーファミリーに属するbasal cell adhesion molecule (BCAM) が下垂体前葉の濾胞星状細胞と血管内皮細胞に発現することを明らかにした。BCAMはラミニンα5鎖特異的な受容体として知られる。胎生ラットの下垂体に関して調べたところ、BCAMは下垂体原基であるラトケ嚢においても発現し、ラミニンα5鎖と共局在していた。このことから、BCAMがラミニンα5鎖の受容体として、下垂体の発生に関わることが示唆された。 平成29年度では、性腺刺激ホルモン産生細胞に発現するラミニン受容体とその細胞内情報伝達経路が性腺ホルモン分泌に関わるか否かを、抗体による結合阻害やRNA干渉、薬理学的手法を用いて調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、ラット下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞に発現するインテグリンがα3鎖とβ1鎖であることを免疫組織化学的手法により明らかにした。しかしながら、抗体による結合阻害やRNA干渉の各実験の条件検討に時間がかかっており、性腺刺激ホルモン産生細胞におけるインテグリンの機能は明らかに出来ていない。一方、免疫組織化学的手法を用いた研究の過程で、濾胞星状細胞と血管内皮細胞はインテグリンα6鎖を発現することがわかった。下垂体前葉において、インテグリンα6鎖は内分泌細胞には発現していないことから、ラミニンへの結合能力が内分泌細胞と濾胞星状細胞とで異なることが示唆される。今後、発現するインテグリン分子の違いと細胞種の機能の差異にどのように関わるのかを調べる必要がある。また、下垂体前葉において濾胞星状細胞と血管内皮細胞はラミニンα5鎖に特異的な受容体として知られるbasal cell adhesion molecule (BCAM) を発現していた。ラミニンα5鎖は発生初期の下垂体で作られることが所属研究室より報告されていた。そこで、胎生ラットの下垂体を組織学的に調べたところ、BCAMとラミニンα5鎖が共局在することを二重免疫染色により明らかにした。これらの結果は、査読付き国際誌に発表するため投稿準備中である。 以上、当初の研究計画どおりではないが、新規な結果と新たな研究課題を得ることができたことから、研究内容はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度において、ラット下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞はインテグリンα3鎖とβ1鎖を発現することがわかった。そこで、平成29年度はインテグリンとその細胞内情報伝達経路が性腺ホルモン分泌に関わるか否かを、抗体による結合阻害やRNA干渉、薬理学的手法を用いて調べる。また、ラミニンによる性腺刺激ホルモン分泌制御と生殖腺のフィードバック機構との関連について生殖腺摘出手術を施した動物を用いて調べる。 下垂体前葉細胞の初代培養系において、培養液にラミニンを添加すると、性腺刺激ホルモンの分泌が促される。そこで、培養液にインテグリンのモノクローナル抗体をラミニンと共に添加し、インテグリンとラミニンとの結合を阻害することで、性腺刺激ホルモンの分泌が影響を受けるか否かを探る。さらに、RNA干渉により特定のインテグリンα鎖やβ鎖の発現を抑えた状態でラミニンが性腺刺激ホルモンの分泌を促すか否かを調べ、ラミニン受容体の同定を確実にする。細胞内情報伝達経路は阻害剤を用いて薬理学的に調べる。 生殖腺のフィードバック機構の影響を調べるため、ラットに生殖腺摘出手術を施す。生殖腺摘出により性腺刺激ホルモン産生細胞は機能亢進状態となる。加えて、生殖腺摘出後の動物に、性ステロイドやインヒビンを投与し、フィードバック機構を再現する。これらの動物を用いて、組織化学的に性腺刺激ホルモン産生細胞のインテグリンや細胞内情報伝達経路の分子、下垂体前葉内のラミニンの発現動態を調べる。
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