基底膜や線維性コラーゲンに代表される細胞外マトリックスは、特異的受容体を介して細胞機能を調節する。研究代表者は下垂体前葉の内分泌細胞が周囲の細胞外マトリックスと接することに着目し、前葉細胞の培養実験で基底膜成分ラミニンが性腺刺激ホルモンの分泌を促す現象を発見した。平成28年度から29年度までの研究で、前葉においてラミニンは性腺刺激ホルモン産生細胞のみならず全ての前葉細胞の機能に影響する可能性を見出した。得られた成果は、以下の3点である。 1)ラット下垂体前葉組織内には、血管内皮細胞直下の基底膜とは別に前葉ホルモン産生細胞に接する基底膜が存在する。免疫組織科学的手法により、血管内皮細胞直下の基底膜はラミニンα4鎖、α5鎖を含み、前葉ホルモン産生細胞に接する基底膜はラミニンα1鎖、α3鎖、α5鎖を含むことがわかった。 2)ラット下垂体前葉細胞の初代培養実験から、前葉ホルモン産生細胞はラミニンα3鎖、α5鎖に反応し、局所接着部位を形成することがわかった。抗体を用いた阻害実験から、この反応には細胞外マトリックスの受容体であるインテグリンα3とβ1が関わることを明らかにした。さらに、培養液中の各前葉ホルモンをELISAにより測定したところ、ラミニンにより前葉ホルモン分泌が惹起されることを見出した。 3)研究の過程で、イムノグロブリンスーパーファミリーに属するbasal cell adhesion molecule (BCAM) がラット下垂体前葉の濾胞星状細胞と血管内皮細胞に発現することを見出した。BCAMはラミニンα5鎖特異的な受容体として知られる。胎生ラットの下垂体に関して調べたところ、BCAMは下垂体原基であるラトケ嚢においても発現し、ラミニンα5鎖と共局在することを示し、これらの分子が下垂体前葉の発生に関わる可能性を見出した。
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