研究課題/領域番号 |
16K18982
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
中倉 敬 帝京大学, 医学部, 助教 (60568658)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 微小管 / αチューブリン / アセチル化修飾 / ACTH細胞 / グルココルチコイド受容体 / 下垂体 |
研究実績の概要 |
内分泌細胞では、ホルモンを含む分泌顆粒や受容体などを必要な場所へ送り届けるシステムが正確に働くことが重要である。このような物質輸送は細胞内に張り巡らされた微小管により調節されている。微小管はαとβチューブリンにより構成されるストロー状の構造であり、細胞種ごとにアセチル化などの翻訳後修飾を受けている。申請者はこれまでに、副腎除去ラット下垂体の副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) 細胞でαチューブリンのアセチル化とその特異的アセチル化酵素ATAT1の発現が増加することを発見し、論文として報告したが、その細胞生物学的役割は未だ不明である。 本研究課題の初年度はACTH細胞でのαチューブリンアセチル化の作用点を明らかにすることを目的に、マウス下垂体ACTH細胞株AtT20細胞でATAT1の発現をsiRNAで抑制した際の、ACTH前駆体POMCやその他関連因子の遺伝子発現をリアルタイムPCRで調べた。その結果、ATAT1ノックダウンがPOMCをはじめとした多数のホルモン合成関連遺伝子の発現に影響することを見出した。チューブリンは微小管タンパク質であるため、ATAT1によるアセチル化修飾は直接的な遺伝子転写制御ではなく、微小管のレール機能の調節に関わることが想定される。グルココルチコイド受容体 (GR) は細胞質内でリガンドと結合すると微小管に沿って核へ移行する核内受容体のひとつであり、ACTH細胞ではPOMC遺伝子群の転写調節に関与する。このため次に、siATAT1および過剰発現プラスミドをトランスフェクションしたAtT20に対し、合成グルココルチコイドであるデキサメサゾン (Dex) による刺激を行った際の核内GR量の変動をウエスタンブロット法で解析した。その結果、ATAT1の発現がGRの核移行に影響する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はACTH細胞におけるαチューブリンアセチル化の作用点を明らかにするため、アセチル化酵素ATAT1をノックダウンしたAt20細胞におけるPOMC関連遺伝子の発現をリアルタイムPCRで解析したことで、チューブリンアセチル化修飾がGRの細胞内輸送に関わる可能性を見出すことができた。次の段階として、GR輸送に対するチューブリンアセチル化修飾の直接的な関与を証明するためにチューブリンアセチル化部位の変異体を用いたドミナントネガティブ実験を計画していたが、本年度後半は所属機関の教育業務に忙殺され、解析を行うまでには至らなかった。そのため、本実験計画は次年度に繰り越して解析を進める。このことについては、研究計画の段階で次年度への繰り越すことも想定していたので研究計画の大きな遅れとはなっていない。初年度はチューブリンアセチル化のACTH細胞における作用点を見つけることを目標にしており、研究計画としては概ね順調に進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って、①チューブリンアセチル化部位変異体プラスミドの過剰発現による、GR核移行への影響、②アセチル化を認識する分子メカニズム、③ホルモン刺激によるATAT1遺伝子発現およびアセチル化修飾調節、について解析を進める。 具体的に、①についてはすでに作製済みのチューブリンアセチル化部位変異体プラスミドを用いて、AtT20細胞へトランスフェクションした際のDex刺激によるGRの核移動をウエスタンブロット法で解析する。②については、GRがタンパク質複合体を作ることに着目し、アセチル化チューブリンを含む微小管への結合、相互作用に必要なタンパク質を明らかにする。実験計画としては、siATAT1や過剰発現プラスミド、チューブリンアセチル化部位変異体をトランスフェクションし、チューブリンその他を免疫沈降した際に共沈してくるタンパク質を、ウエスタンブロット解析およびLC-MS/MSなどで同定する。③については、AtT20を視床下部ホルモンCRHやDexで刺激した後、ATAT1 mRNA発現をリアルタイムPCRで、チューブリンのアセチル化変動をウエスタンブロット法で解析する。以上の解析から、チューブリンアセチル化修飾とGR核輸送をつなぐ分子メカニズムを明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
繰越金が生じた理由として、もともとsiATAT1によるノックダウン実験の結果に応じて、ELISAキットの購入を計画していたが、その必要がなくなったことが挙げられる。また、年度後半に計画していた実験が実習などの教育業務で忙殺され、試薬その他の購入を見送ったことも理由のひとつである。このため、繰越金は次年度の消耗品費とその他経費に加えることで、適切に使用する。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費150万円のうち消耗品に120万円、旅費に10万円、その他に20万円を計画している。消耗品の内訳としては、細胞培養関連試薬(培養液、血清、抗生物質、培養シャーレ他)、遺伝子実験試薬(siRNA、PCR試薬、酵素類他)、プラスチック器具(メスピペット、チップ、チューブ類)の購入を計画している。旅費は、成果を発表する目的で学術集会に参加するための交通費および宿泊費にあてる。その他経費は受託解析費と学会参加費に使用する。
|