研究実績の概要 |
膜動現象の作動には形質膜や細胞内小胞器官膜の適所におけるホスホイノシタイド(PI)の産生が必要である。PI合成の律速酵素PI3キナーゼ(PI3K)は3クラスが存在し、最も研究の進んでいるI型PI3KはPI(3,4,5)P3を産生して細胞遊走、貪食作用、飲作用や細胞増殖シグナル産生に関与し、III型PI3K-Vps34はPI(3)Pを産生してオートファジーを制御する。一方II型PI3Kの機能は、申請者のグループがPI3K-C2αノックアウト(KO)マウスの表現型(血管新生の著しい障害による胎生致死)を報告するまで不明であった。内皮細胞においてPI3K-C2αは主としてPI(3,4)P2を産生し、VEGF、TGFβやS1Pなど血管形成因子受容体のエンドサイトーシスとその後の細胞内小胞での受容体シグナリングに必要であることを明らかにした(Nature Med 2012, J Biol Chem 2013, 2015)。 本研究ではPI代謝に注目し、脂質代謝を司る種々の酵素による細胞内及び生体内にける調節機構に焦点を当てる。申請者らは既に、クラスII 型PI3K-C2αがTGFβ1-Smad2/3 シグナル伝達経路を介した血管新生調節に必須な分子であることを見出している(J Biol Chem 2015)。TGFβ刺激によって誘発される各種PIのレベルを、PI特異的蛍光プローブに結合するタンパクドメイン発現ベクターを用いた共焦点蛍光顕微鏡下のリアルタイム単一細胞イメージング法により、1)各PIレベルの変化、2)PIレベルが変化を示す細胞内部位、3)PI代謝を調節するPIホスファターゼ及びキナーゼを明らかにした。 本研究で得られた成果は、受容体内在化の詳細な分子機構の解明及び生体レベルにおける生理的機能への影響、延いては脂質代謝異常が起因する疾患発症メカニズム解析の重要な知見となる。
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