研究課題
本研究の目的は、tRNA修飾酵素FTSJ1の癌の病態生理における分子メカニズムの解明と、それに基づく治療法の研究開発である。平成28年度は当初の研究計画に従い、FTSJ1の増減によって影響をうける癌関連因子の探索を行った結果、癌幹細胞研究領域で近年広く研究者の注目を集めているYAP/TAZがFTSJ1によって翻訳制御を受けていることを発見し、その分子メカニズムを生化学的・細胞生物学的に実証した。FTSJ1の発現抑制は、癌幹細胞の自己複製能や造腫瘍性を顕著に抑制し、逆にFTSJ1の発現上昇は、これらの癌幹細胞の性質を増強する結果となった。FTSJ1-YAP/TAZ機軸による癌幹細胞性制御機構は広く癌幹細胞で保存されている現象であるため、正常幹細胞などがFTSJ1-YAP/TAZ機軸による制御を受けていないことが確認できれば、良い抗がん剤のターゲットとなると確信している。それゆえ、当初の研究計画通りこのFTSJ1-YAP/TAZ機軸に基づくFTSJ1抑制薬剤の開発プラットフォームを開発し、共同研究によりドラッグスクリーニングを行っている。具体的には、FTSJ1-YAP/TAZ活性を検出することができるルシフェラーゼベースのスクリーニングシステムを用いて一次スクリーニングを行っている最中である。現在、前者で得られた研究結果をもとに論文投稿準備中であり、それに併せて海外の研究協力者との打ち合わせも行っている。また、ドラッグスクリーニングが終わり次第、その結果を展開するために関連する特許の取得や論文作成を行う予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は平成29年度末を目処に論文投稿を計画していたが、平成29年度初頭の時点で論文投稿に十分な分量の研究結果が得られており、実際に論文投稿準備に入ることができたため、当初の計画以上に進展していると確信する。また、同時に本研究開発のテーマである薬剤開発についても、必要となるプラットフォームを確立しており、実際にドラッグスクリーニングを行えているため、こちらについても当初の計画以上の進展状況といえる。また、癌細胞における翻訳メカニズム制御機構について、将来的に別の研究領域に展開が可能な知見が得られたため、こちらについても文献上の考察および研究計画立案を準備している最中である。
当初の研究計画よりも極めて順調に進行しているため、可及的速やかに現時点で得られている科学的知見をもとにした論文の投稿を進める。目標としては、平成29年夏までにに論文掲載を確約したい。また、ファルマバレーと共同で進めている薬剤開発についても当初の研究計画以上の速度で進行できているため、FTSJ1の癌特異的阻害剤を開発した上で特許の取得および論文投稿を可及的速やかに行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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