膵β細胞で非常に多く発現している遊離脂肪酸受容体1(GPR40)は中長鎖脂肪酸が結合するとグルコース依存性インスリン分泌を増強するが、その制御機構は不明である。本研究では長鎖脂肪酸DHA・EPA刺激によるグルコース依存性インスリン分泌増強作用、並びに腸管ホルモンGLP-1との同時刺激によるインスリン分泌相加・相乗作用の分子機構を検討し、そのメカニズムを定量的・総合的に解明する。実験と理論の独創的アプローチでGPR40・GLP-1レセプター(GLP-1R)の下流シグナル系のクロストークを検討すると共にDHA・EPAとGLP-1との同時刺激によるインスリン分泌の効率性・安全性を検討し安心・安全な糖尿病治療の実現を目指す。EPAは濃度依存的にβ細胞株INS-1のグルコース依存性インスリン分泌を有意に増加させた(平成29年度)。GPR40シグナル伝達系下流因子であるPKCのactivator(PMA)も同様に、グルコース刺激によるインスリン分泌を有意に増加させた。またPMA存在下でGLP-1R刺激を行うと、それぞれ単独の刺激によるインスリン分泌を相乗的に増加させたPMAのインスリン分泌相加・相乗作用は、GLP-1Rシグナル伝達系下流因子であるPKAの阻害剤で抑制されたことから、GLP-1とGPR40 の下流シグナル制御のクロストークが示唆される(平成30年度)。数理β細胞モデルを用いた理論研究では、PKAおよびPKCの活性化による細胞内カルシウム濃度の増加は、主にIP3Rの活性化が重要な要素であることが明らかとなったことから、IP3RがGLP-1とGPR40 の下流シグナル制御のクロストークの主要要素であると考えられる。
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