研究課題/領域番号 |
16K18998
|
研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
野村 憲吾 基礎生物学研究所, 統合神経生物学研究部門, NIBBリサーチフェロー (10734519)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 食塩 / 血圧 / 交感神経 / ナトリウムチャンネル |
研究実績の概要 |
1. 食塩の過剰摂取による血圧上昇におけるNaxの役割:食塩の過剰摂取により脳脊髄液のナトリウム(Na)濃度が上昇すると、脳によるNa感知を経て血圧が上昇すことが知られている。しかし、血圧制御を担う脳内Naセンサーの実体は不明であった。そこで、脳に発現するNaチャンネル分子であるNaxが血圧制御を担うNaセンサーではないかと考え、Naxノックアウトマウスと野生型マウスに食塩を過剰摂取させ、血圧の変化を比較した。 2. 脳脊髄液のナトリウム濃度上昇に応答した血圧上昇におけるNaxの役割:脳室内に高張Na溶液を直接注入することで、脳脊髄液のNa濃度を上昇させた場合の血圧の変化をNaxノックアウトマウスと野生型マウスで比較した。脳脊髄液中のNa濃度上昇に応答した血圧上昇には、交感神経活動の亢進や抗利尿ホルモンであるバソプレッシンの分泌促進が関与することが知られている。そこで、交感神経活動の阻害剤やバソプレッシン受容体阻害剤の存在下で高張Na溶液の脳室内注入をおこない、その際の血圧変化をNaxノックアウトマウスと野生型マウスで比較した。さらに、高張Na溶液の脳室内注入をおこなった際の交感神経の電気活動の変化を直接記録し、Naxノックアウトマウスと野生型マウスで比較した。 3. Naxによる血圧制御を担う神経回路の探索:まず、数ヶ所のNax発現部位をそれぞれ局所的に破壊したマウスを作製した。作製したマウスに高張Na溶液の脳室内注入をおこない、血圧上昇作用が消失しているかどうかを調べることで、血圧制御のためのNa感知をおこなう脳内領域を同定した。さらに、同定したNa感知領域から、血圧制御の中枢として知られる脳内領域に軸索を伸ばしている神経細胞群が存在することを確認した。そして、その神経細胞群の活動がNaxにより制御されているか、急性脳スライスを用いた電気生理学的実験により調べた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画からの2つの変更点として、(1) 平成29年度に実施する予定であった食塩の過剰摂取に伴う血圧上昇におけるNaxの役割を検討する実験を前倒しして平成28年度に実施するという変更、および(2) 食塩による血圧上昇モデルとして使用する実験系の変更はあったものの、計画はおおむね順調に進展し、医学的・生理学的に重要な成果を得ることができている。 その理由としては、当初使用を予定していた動物モデルよりも、より生理的な条件に近い動物モデルで成果を得ることができたことが大きい。当初の予定では、体内埋め込み式のポンプを用いた高張Na溶液を強制的に慢性注入するモデルや、腎不全マウスを高食塩食で飼育するモデルを使用する予定であった。これを変更し、食塩の摂取量を増加させるだけの刺激で血圧を上昇させるモデルを使用した。その結果、より生理学的に重要な結果が得られたとともに、実験操作に要する時間の短縮にもつながり、当初の計画に加えて、Naxによる血圧制御を担う神経細胞群を同定する実験にも着手することができた。 以上のことから、計画はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、血圧制御のためのNa感知をおこなう脳内領域で、Naxが神経細胞を活性化させるメカニズムについて検討をおこなう。Naxは神経細胞ではなくグリア細胞に発現する。これまでに、Naxを発現するグリア細胞では、細胞外Na濃度の上昇によりNaxが活性化すると、乳酸トランスポーターを介して乳酸が細胞外に放出されることがわかっている。そこで、血圧制御のためのNa感知をおこなう脳内領域の神経細胞群のについて、その活性化における乳酸の役割を調べる。 さらに、血圧制御のためのNa感知をおこなう脳内領域から、血圧制御の中枢として知られる脳内領域に軸索を伸ばしている神経細胞群が、実際に血圧制御に関与しているかどうかを調べる。そのために、光遺伝学的手法を用いて、当該神経細胞群の活動だけを選択的に活性化、あるいは抑制する実験系をおこなう。まずは、標的の神経細胞選択的に活動を抑制し、高張Na溶液の脳室内注入に伴う血圧上昇が消失するかを調べる。次に、標的の神経細胞選択的に活動を亢進させ、血圧が上昇するかを調べる
|