食塩 (NaCl)と血圧の関連はよく知られており、体液 (血液や脳脊髄液)のNa+濃度が上昇すると、交感神経の活性化を介して血圧が上昇する。しかし、血圧制御を担う脳内Na+感知機構の詳細は不明であった。予備実験から、脳内Na+センサー分子であるNaxチャンネルが血圧調節に関与することが示唆された。そこで、Naxによる血圧制御機構について詳細に調べた。 1.体液のNa濃度が上昇した時の血圧上昇におけるNaxの役割:野生型マウスとNax遺伝子欠損 (Nax-KO)マウスに対し、食塩を過剰摂取させる実験、および高張食塩水を腹腔内に投与する実験をおこなった。このときの血液と脳脊髄液のNa+濃度、血圧、交感神経の活性を調べた。 2.脳脊髄液のNa+濃度上昇に応答した血圧上昇におけるNaxの役割:野生型マウスとNax-KOマウスの脳室内に、高張Na溶液を注入した。このときの血圧および交感神経活動の変化を測定した。 3.Na+に応答した血圧上昇を担う神経路の探索:2つのNax発現部位をそれぞれ破壊したマウスを用い、血圧制御のためのNa+感知領域を同定した。光遺伝学の手法を用い、この領域に細胞体があり、交感神経中枢へと投射するニューロンを選択的に活性化させ、血圧の変化を調べた。このニューロンの活動がNaxにより制御されているか、電気生理学的実験で調べた。 4.Naxの活性化がニューロンを興奮させる機序の探索:上述の領域で、Naxはグリア細胞に発現する。そこで、細胞外Na+濃度の上昇に応じてグリア細胞から放出される分子を調べた。さらに、ニューロン側でグリア細胞からのシグナルを受け取る候補分子について、Na+による血圧上昇に関与するか調べた。 本脳内機構は、食塩の過剰摂取による血圧上昇に関与する可能性がある。したがって本研究は、高血圧の新たな治療標的を提示し、国民の健康に貢献するものと期待される。
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