研究課題
本研究は、「老化による特定組織の機能低下を感知する組織特異的発現型マイクロRNA (miRNA)を見出すこと」と「老化により血中量の減少が見られる骨格筋特異的発現型miRNA をテストケースとして、その血中量が減少することの原因とそれにより生じる筋分化過程への影響、そして老化マウスで見られる筋再生遅延へのmiRNA 補充効果を明らかにすること」を目的としている。本年度は、昨年度の結果を受け、若齢・老齢マウスの血中 miRNAプロファイルの違いによる筋分化への影響を調べるため細胞レベルの実験を行った。具体的には、マウス筋芽細胞株C2C12細胞を若齢あるいは老齢マウスの血清を含む分化培地で培養したところ、前者の培養条件下において筋分化マーカー(e.g. Myog)の発現がより強く誘導されることがわかった。さらに、若齢マウス血漿中に多く含まれていたmiRNAをC2C12細胞に導入し筋分化への影響を調べた。結果、それらのmiRNAの中には筋分化誘導性のmiRNAが複数存在することがわかり、中でも、miR-Xが強い筋分化誘導能を有することが明らかとなった。miR-Xはこれまで筋分化誘導性miRNAとして知られておらず、その導入効果についてさらに調べたところ、代表的な筋分化誘導性miRNAであるmiR-1やミオシン重鎖タンパク質の発現を上昇させることがわかった。また、バイオインフォマティクス解析やウェスタンブロット解析によりmiR-Xの標的遺伝子候補の絞り込みも実施した。若齢および老齢マウスの様々な組織におけるmiR-Xの発現量についても調べたところ、miR-Xは筋組織で発現量が高く、その発現量は老齢マウスの筋組織で特異的に低下することも明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、若齢マウス血清および若齢マウス血漿に多くに含まれていたmiRNAの筋分化への影響を解析し、新たな筋分化誘導性のmiRNAとしてmiR-Xを見出すことができた。また、マウス組織を用いた発現解析の結果から、miR-Xは筋組織での発現量が高く、老齢マウス筋組織においてmiR-Xの発現量が低下することも明らかにすることができた。加えて、来年度以降に予定しているマウスを用いた実験や初代培養細胞を用いた実験に向けた条件検討を進め、適切な条件の設定は完了している。来年度以降に老齢マウスを用いた解析を計画しているが、その準備も問題なく進んでいる。よって、ほぼ計画通りとなったと考えている。
研究は順調に進んでおり、来年度(H29年度)は予定していたマウスへのmiRNA導入実験を進める。当初の計画では、老齢マウス血漿で減少する筋分化誘導性のmiR-1をマウスへ投与することを考えていたが、本年度の研究から老齢マウスの血漿および筋組織で減少しかつmiR-1よりも強い筋分化誘導能を持つと考えられるmiR-Xを見出すことができた。今後、新たな筋分化誘導性miRNAとしてmiR-Xに着目し、筋分化や老化へのmiR-Xの関与の有無をin vivoで調べたいと考えている。そのため、当初の計画を変更し、来年度はマウスへのmiR-X投与実験を行う予定である。
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