研究実績の概要 |
これまで、様々なヒトがん細胞株において、体内時計の有無、すなわち、時計遺伝子の発現が時系列に沿って概日周期で振動するかどうかを調べてきた。そのためには、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を用いた時計遺伝子発現の発光長時間測定を行った。多細胞レベルの振動解析によると、明瞭な概日周期の遺伝子振動が観察される細胞と、微弱な概日周期の遺伝子振動を示すもの、全く概日周期の遺伝子振動を示さないものとが観察された。同調刺激を少なくとも3種類、試した。それでも、全く概日周期の遺伝子振動を示さない細胞株に関しては、発光顕微鏡を用いた1細胞レベルでの発光長時間測定を行なった。これにより、同調刺激への応答の有無を考慮することなく、概日周期の遺伝子振動の有無を判定することができる。その結果、多くの細胞において、多細胞レベルでの結果と、1細胞レベルでの測定結果は一致することがわかった。すなわち、1細胞レベルで、概日周期の遺伝子振動が破綻している細胞とそうでない細胞が存在することがわかった。次に、これらの細胞全てを用いて、体内時計の破綻を示す未知のメカニズムが存在するか探索を試みた。最初に、概日周期の遺伝子発現振動を作り出す、時計遺伝子群の発現解析を行なった。先行研究によって同定されている時計遺伝子(Clock, Bmal1, Cry1, Cry2, Per1, Per2)を調べた。その結果、どの細胞株においても、どの時計遺伝子も、発現量に差はあるものの、発現はしており、これだけで、概日周期の遺伝子振動の破綻を説明するには、不可能と思われた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行い、胚性幹細胞(ES)細胞を用いた網羅的遺伝子解析により得られた結果とどの程度一致するかを検討する。マイクロアレイ解析の測定自体は外注し、RNAサンプルの精製とデータ解析を行うことにした。データ解析は、主にクラスタリング解析やパスウェイ解析を行う。さらに必要な解析手法も取り入れる。また、データベースにおいて、ヒト細胞株のデータも存在するため、参照しながら結果の正当性を評価する。さらに、時計遺伝子(Clock, Bmal1, Cry1, Cry2, Per1, Per2)のmRNAのみに着目するのではなく、その翻訳産物であるタンパク質についてもウェスタンブロッティング法により確認する。ウェスタンブロッティング法に使用する時計タンパク質(CLOCK, BMAL1, CRY1, CRY2, PER1, PER2)を特異的に検出できる抗体は準備ができている。時計タンパク質(CLOCK, BMAL1, CRY1, CRY2, PER1, PER2)ノックアウト細胞を用いて、その特異性を確認した。 これらの結果と、申請者自身による先行研究結果である、ES細胞を用いたin vitro分化誘導系を用いた、細胞分化過程と共役した体内時計創出メカニズムの遺伝子発現網羅的解析をRNA-sequencingによって得た結果と比較し、その共通点・相違点を調べる。また、この先行研究によると、KPNA2タンパク質が、細胞分化過程に伴った体内時計形成に重要であることが示唆されている。本研究においては、すでに概日周期の遺伝子振動の有無を確認したヒトがん細胞株について、このKPNA2のmRNAとタンパク質発現レベルを調べる。
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