研究課題/領域番号 |
16K19026
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
落合 恭子 東北大学, 医学系研究科, 助教 (10455785)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞分化制御 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
転写因子IRF4(Interferon regulatory factor 4)は形質細胞分化に必須の転写因子であり、活性化されたB細胞において生ずる「抗体アイソタイプのクラススイッチ」と「形質細胞分化誘導」の双方を制御する。とりわけ、前者は低IRF4レベルによって引き起こされ、後者は高IRF4レベルによって誘導される。クラススイッチを経たB細胞は抗原特異的な抗体を産生する形質細胞へと分化するが、その一部は長期生存型であるメモリーB細胞へと分化して抗原の再来に対して迅速な抗体産生を行う。近年の研究から、メモリーB細胞ではIRF4が低レベルで維持されていることが推測される。本研究では、低IRF4レベルを維持する分子機構解明を介してメモリーB細胞維持機構に迫る。 先行研究結果から、低IRF4レベルはIRF4タンパク質分解機構によって維持される可能性が考えられた。多くの場合、タンパク質分解には標的タンパク質のリン酸化が関与し、B細胞分化においてもリン酸化シグナルが分化に重要な役割を担うことが示されている。そこで、まず「IRF4タンパク質のリン酸化修飾の有無」と「低IRF4レベルと高IRF4レベルにおけるリン酸化修飾部位の変化」を解析した。 B細胞受容体トランスジェニックマウスから脾臓B細胞を採取し、低IRF4レベル時と高IRF4レベル時のIRF4複合体を精製した。そして質量分析によってIRF4リン酸化状態の解析を行ったところ、それぞれの条件下でIRF4タンパク質のリン酸化が確認された。しかし、双方の条件間のIRF4リン酸化部位には大きな差が認められなかった。このことから、「IRF4とタンパク質分解因子の結合」および「これらの因子の発現変化」に焦点を絞る必要性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始当初は、B細胞、メモリーB細胞および形質細胞におけるSingle-cell RNAseqを実施する予定であった。先行研究の詳細な解析を遂行したところ、転写因子Bach2遺伝子が欠損したB細胞ではIRF4遺伝子発現レベルでの変化がなかったにも関わらずタンパク質の顕著な蓄積が認められた。すなわち、Bach2遺伝子欠損B細胞ではIRF4タンパク質分解機構が抑制されている可能性がある。一方、研究遂行中にmemory B細胞維持にはBach2が必須であることが報告された(Shinnakasu R. Nature Immunology, 2016)。新規報告も加味すると、メモリーB細胞におけるBach2存在意義はIRF4低レベルの維持であることが予想された。そこで迅速かつ焦点を絞った研究遂行を行うために、タンパク質分解に関与するシグナル伝達系、とりわけ分化への関与が報告されているリン酸化シグナルによる修飾の可能性を考慮し、IRF4タンパク質リン酸化修飾変化の解析を先行した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた結果から、IRF4タンパク質安定性にはタンパク質分解誘導因子との相互作用またはこれらの因子の発現が重要であると推測された。そこで、IRF4タンパク質分解誘導因子群の同定を行い、Bach2によるこれらの因子群の発現制御の有無を明らかにする。 IRF4タンパク質分解誘導因子群の同定は、初年度に取得したIRF4複合体解析データからタンパク質分解関連因子をリストアップする。これらの因子のうち、Bach2遺伝子欠損により大きな発現変化が認められる遺伝子群を抽出しタンパク質分解経路を絞り込む。得られた因子群によるIRF4タンパク質分解制御を確認するため、レトロウイルス過剰発現ベクターまたはノックダウンベクターを構築し、プライマリーB細胞に発現導入してIRF4タンパク質安定性への影響を検討する。これらの解析によってIRF4タンパク質分解の分子機構を明らかにする。 最終的にはこれらの因子群の発現変化が、B細胞、メモリーB細胞、形質細胞でどのように異なるか比較解析し、IRF4タンパク質レベルの制御機構解明を目指す。
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