研究課題/領域番号 |
16K19028
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
国田 勝行 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (40709888)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インスリンシグナル伝達 / システム生物学 / ライブセルイメージング |
研究実績の概要 |
生物は限られたシグナル伝達経路を用いて数多くの刺激パターンに対応している.シグナル伝達経路の本質の一つは,多彩な出力を限られた分子またはネットワークにコードするシステム機構にある.本研究の目的は,骨格筋に着目しインスリンの時間パターンによるAkt経路を介した代謝調節(タンパク質合成とグリコーゲン生成)を実験と数理モデルを用いて解明することである.本年度は,昨年度取得した未分化及び分化の骨格筋でのタンパク質合成を制御するS6K活性のライブセルイメージングデータに対する①定量解析と②数理モデル解析について引き続き研究を行った. 定量解析に関しては,昨年度に引き続きライブセルイメージングデータから分化骨格筋領域を自動的に抽出する画像解析アルゴリズムの開発を行った.開発した画像解析アルゴリズムを用いて,インスリン濃度依存的なS6K活性のシングルチューブごとのばらつきの定量化を行った.現在,論文投稿中である.また未分化の骨格筋細胞のS6K活性の時間応答と時間応答に関する特徴量抽出(ピーク値、ピーク時間など)のシングルセルばらつきを定量化した.シングルセル分布データに対して,Shannon情報量エントロピーを計算し、情報工学の観点からのインスリンシグナル伝達経路の情報伝送能力を評価した. 一方で数理モデル解析に関しては,実験データからネットワーク構造を同定する方法としてシステム同定法の適用を進めている.手法開発としてまずPC12細胞で計測された応答時間スケールの異なるシグナル分子と遺伝子発現の時系列データへのシステム同定法の適用を行い,論文発表を行った(Tsuchiya et al., PLoS Comput Biol 2017).またシングルセルごとのモデルパラメータのばらつきを推定するために,ベイズ推論に基づくシステム同定法の適用も進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究進捗は,年度途中での所属機関の異動もあり当初計画よりも遅れ気味である.そのため研究期間の延長を申請し,来年度も引き続き本研究課題を継続して進めることとなった.本年度の一番大きな進捗は,昨年度から開発を行っていたライブセルイメージングデータから分化骨格筋領域を自動的に抽出する画像解析アルゴリズムの論文化である.特許も出願中である.この画像解析アルゴリズムにより実験データからアンバイアスに定量データを抽出できるようになり,今後のインスリンシグナル伝達経路の定量的な数理モデルの構築に向けての準備が整った.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,骨格筋とは別の細胞種ではあるがPC12細胞を用いて分子応答データへのシステム同定法の適用に成功し,論文発表も行った.またライブセルイメージングデータから分化骨格筋領域を自動的に抽出する画像解析アルゴリズムを論文として投稿中である.来年度は引き続き画像解析アルゴリズム開発とShannon情報量エントロピーによるインスリンシグナル伝達の情報伝送の論文化と定量データに基づく数理モデル解析を進める.数理モデル解析は画像解析アルゴリズムから抽出したインスリン刺激に対するS6K活性のシングルセル応答データに対して,ベイズ推論に基づくシステム同定法の適用を進める予定である.このモデル化手法を用いて、シグナル強度や非線形性など推定することにより,上流分子のどのような情報が下流に伝わるのかという選択的な制御機構を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度9月に現所属機関に異動し,研究実施場所が変更したことで実験計測や計算機環境が大きく変わり1年間の補助事業期間の延長を申請し,当初の研究計画を大きく変更することになった.実施期間延長に伴い,次年度使用額分の金額の繰り越しを行った.平成29年度は前所属機関への短期滞在を行い引き続き実験を行っていたが,平成30年度は次年度繰り越しを行った予算で,前所属機関より実験計測機器を現所属機関に移設を行い実験及び解析を行う.また昨年度に発表予定であった研究成果に関しては,今年度中に学会発表および学術論文として成果発表を行う.
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