細胞は特定のストレス刺激に応答してストレス顆粒と呼ばれる一過性の構造体を形成し、不要不急のmRNAの翻訳を停止することで、ストレス存在下での生存を図る。ストレス顆粒形成は酵母から哺乳動物に至るまで保存され、生物の基本的なストレス応答機構であると考えられる。酵母では低栄養で容易にストレス顆粒形成が観察されるのに対し、哺乳動物では生理的ストレスによるストレス顆粒形成は観察されにくく、哺乳動物細胞が日常的に暴露される生理的ストレス下でのストレス顆粒形成の意義は未だ曖昧である。 そこで本研究では前年度までに、ストレス顆粒形成を促進あるいは抑制する低分子化合物の探索を行った。皮膚由来の培養細胞であるHaCaT細胞、およびがん細胞としてHeLa細胞を用いてストレス顆粒形成を制御する低分子化合物の探索を行った結果、両細胞間で得られた化合物が大きく異なった。特に、HeLa細胞を用いたスクリーニングからは、ストレス顆粒形成を強く抑制する化合物が3種類同定されたため、はじめにそれら3種類の化合物によるストレス顆粒形成抑制の分子機構を解析し、がん細胞の抗がん剤感受性への影響を検証した。 本年度は、皮膚細胞におけるストレス顆粒形成に焦点を当て、様々な生理的ストレスによる皮膚細胞でのストレス顆粒形成を検証した。次に、ストレス顆粒形成能が加齢性に変化するかを検証した結果、老化した細胞では、ストレス顆粒形成能が低下する傾向が見られた。そこで、HaCaT細胞を用いた化合物スクリーニングによって得られたストレス顆粒形成を促進する化合物で、人工的に老化細胞にストレス顆粒形成を誘導すると、細胞老化が抑制されるかどうかを現在検証中である。 また、老化によるストレス顆粒形成能への影響を個体レベルで検証するため、ヒト早老症を模倣したモデルノックインマウスを二系統樹立し、皮膚において顕著な老化が見られることを確認した。
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