シナプスの形成・維持は学習・記憶の細胞基盤であり、その破綻が加齢や種々の精神・神経疾患による学習・記憶の低下につながる。申請者は、これまでに細胞間接着分子ネクチンとその結合分子アファディンによる、海馬の苔状線維巨大シナプスの形成機構を見出してきたが、本研究では、シナプスが形成された後のその構造と機能の維持におけるネクチンとアファディンおよびその結合分子の機能と作用機構の解析を目標としている。本年度は、サブテーマごとに以下のような結果を得た。 (1) 老齢マウスにおけるネクチンとアファディンおよびその結合分子の局在と複合体結合様式の解析:老齢マウスのコロニーを拡大し、定期的に二年齢を超えるマウスを実験に供することが可能な環境を確立した。二年齢マウスを用いて海馬苔状線維を各種マーカーで染色したところ、予想に反してシナプスジャンクション及びパンクタアドヘレンティアジャンクション(PAJ)の分子集積には顕著な変化を認めなかった。 (2) アファディンおよびマギンのノックアウトマウスを用いたシナプス維持機構の解析 成熟マウスの海馬苔状線維シナプスの形態や機能が、アファディンノックアウトマウスでは大きく損なわれることを見出した。アファディンノックアウトマウスのシナプス前部及び後部の機能異常について、個別に検討したところ、シナプス前部からの放出確率の低下、シナプス後部でのグルタミン酸受容体の集積低下がその主たる要因であることを見出した。それらの結果をまとめ、3報の論文として発表した。またl-アファディンがαN-カテニンとアクチン線維と協働してPAJの形成・維持に関与していること、シナプス後部のグルタミン酸受容体集積低下が、s-アファディンと結合したマギンがPSD-95のシナプスにおける集積を促進・維持していることに起因することを見出し、それらを論文投稿中ないし準備中である。
|