本研究はATP依存性クロマチンリモデリング因子Swi/Snf複合体に着目し、発癌における生理学的機能を解明することを目的としている。Swi/Snf複合体の中で、特にBrg1-Swi/Snf複合体の構成因子は癌細胞の約20%で変異又は欠失が見つかっており、主要構成因子であるSnf5はラブドイド腫瘍の原因遺伝子である。Swi/Snf複合体のターゲット遺伝子は生存に不可欠なものが多く、Brg1やSnf5のノックアウトマウスは胎生致死を示し、培養細胞における構成因子のノックダウンもまた細胞増殖停止を引き起こすため、Swi/Snf複合体の癌細胞における役割は不明な点が多い。本研究では、in vitroにおけるクロマチン再構築系を用いて、癌変異性Brg1-Swi/Snf複合体の転写制御への影響を調べた。 1)ヒト胎腎細胞HEK293を用いて、野生型又は癌変異型Brg1-Swi/Snf複合体を精製し、転写機能の違いを調べた。In vitroにおいてクロマチン構造変換を伴うアンドロゲン転写誘導系に加えたところ、Snf5のN末端が9アミノ酸短いSnf5bを含む複合体では転写が抑えられることを発見した。 2)ATP分解酵素Brg1とBRMはアミノ酸レベルで約75%と高い相同性をもち、SNF5やBAF155、BAF170などの共通した因子を含む複合体を形成している。機能的にもオーバーラップしていると考えられていたが、近年膵臓ランゲルハンス島のβ細胞においてBrg1が特異的に転写制御していることが明らかになった。そこで、Brg1とBRMの癌細胞における機能的な違いを明らかにするために、Hela細胞においてBRG1、BRM、SNF5をノックダウンしたところ、BRMのノックダウンはBRG1のノックダウンと同レベルの増殖抑制を示した。このことから、BRMも癌における細胞増殖を制御していることが予想された。
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