研究課題
心血管系の発生・形態形成における分子メカニズムの解明は、基礎研究のみならず臨床的にも意義のある研究である。加えて、先天性心血管奇形は新生児に高頻度に生じるが治療困難な症例も多いため、その原因の解明、治療ターゲットの同定が切望されている。Bone morphogenetic protein (BMP)によるALK1受容体の活性化を起点とする内皮細胞シグナル伝達系は、胎生期の血管形態形成に必須の役割を果たす。申請者の所属研究室では、ALK1シグナルによってヒト培養内皮細胞における発現が顕著な亢進を示す膜タンパク質Transmembrane protein No.100(Tmem100)を、内皮特異的な新規ALK1下流因子として同定した。Tmem100のノックアウトマウスは心血管形成異常により胎生致死であり、Tmem100が正常個体発生に必須であることは明らかであるが、Tmem100の発現制御機構や分子機能には不明な点が多い。また、Tmem100の発現制御メカニズムは既知のALK1シグナル下流遺伝子群とは全く異なり、新たなタンパク質の合成を介した遠位エンハンサーのエピゲノム調節によることを示唆する結果も得られている。そこで、本研究では、Tmem100について、①胎生期の血管内皮特異的発現の制御メカニズムと②心内膜の内皮間葉転換とカルシウムシグナルに焦点をあてた分子機能を明らかにすることを目的とする。本研究により、新しい心血管形態形成の必須因子Tmem100のALK1シグナルを中心とした発現調節様式、および、分子機能を検討し、心血管形態形成の新たな制御メカニズムの同定を目指す。
2: おおむね順調に進展している
研究計画以下のことを実施することができ、おおむね順調に進展している。①Tmem100の発現制御メカニズムは既知のALK1シグナル下流遺伝子群とは全く異なり、新たなタンパク質の合成を介した遠位エンハンサーのエピゲノム調節によることが示唆されるこれまでのデータから、Tmem100遺伝子上流および下流約200kbの染色体DNAを含むBACクローン2種類を用い、大腸菌内相同組換えによってノックインLacZレポーターを作製した。これらのBACレポーターのトランスジェニック(Tg)マウスを作成してLacZ発現を解析したところ、Tmem100遺伝子下流216kbを含むBACクローンにおいて内在性Tmem100発現パターンを再現する胎生期血管特異的エンハンサーが存在すると考えられた。このBACクローンに含まれる長大な塩基配列から数種類の欠失変異体を作製し、胎生期のLacZ発現パターンを解析した結果、内在性Tmem100発現パターンを再現する内皮特異的エンハンサーを含むと考えらえる領域を約37kbまで絞り込むことに成功した。②心内膜の内皮間葉転換とカルシウムシグナルに焦点をあてた分子機能については、心内膜内皮特異的Tmem100欠損マウスを作成し、内皮間葉転換・遊走・増殖の異常の有無を検討した。
Tmem100の胎生期内皮特異的発現に必要十分なエンハンサー領域を決定するため、37kbの領域からさらに数種類の欠失変異体を作製し、そのTgマウス胚におけるレポーター発現パターンを解析する。同定したエンハンサー領域に結合するタンパク質(DNA結合型転写因子やコファクター分子を候補とする)を分子生物学的手法により同定するとともに、3C解析などにより高次エピゲノム転写調節機構を明らかにする。
必要物品購入、学会参加など有効に利用させて頂いたが、実際は昨年度使用予定額より少なかったため次年度使用額が生じた。
今年度の予算と併せて研究が順調に進むよう有意義に利用させて頂く。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Science Translational Medicine
巻: 8 ページ: -
10.1126/scitranslmed.aag1711