細胞生存に必須な機能を有するミトコンドリアには,細胞内で利用される鉄の多くが適切に運ばれ代謝に用いられている。これまでに細胞内への鉄取り込み・ 輸送・ミトコンドリアでの利用などについては多くの知見が報告されているが,ミトコンドリアに運ばれた後にどのような代謝ステップが異常になると疾患が引き起こされるかについては未解明な部分が多く残されている。 本研究では,ミトコンドリアがストレスに応答する際に示す反応(ストレス応答)のひとつとして新たに見出した,ミトコンドリア由来小胞の形成と神経変性疾患 との関わりについて検討した。特に,細胞内鉄の動態(取り込み・排出・輸送・利用)とミトコンドリア小胞形成の意義、疾患発症メカニズ ムにおけるミトコン ドリア小胞の意義について検討すべく,計画初年度においては,ストレス応答時のミトコンドリアの変化についてイナミクス(形態変化)・構造(小胞構成成 分)・オミクス(プロテオミクス,トランスクリプトーム)解析を実施し,2年度目は鉄代謝ストレス応答性ミトコンドリア小胞には,その形成ステップとして他のオルガネラのミトコンドリア外膜へ の接触が必要である可能性を見出した。最終年度にはさらに小胞形成時に接触するオルガネラの生理的意義について解析し,接触阻害時に予想される病的状態への細胞内環境の移行について検討した。結果,オルガネラ接触が認められない場合に細胞はより急速に細胞死へとたどり着くことが示され,これら一連のステップは細胞に加えられたストレスへの対抗システムであると予想された。
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