研究課題/領域番号 |
16K19048
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
篠崎 昇平 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座准教授 (40622626)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / S-ニトロソ化 / β細胞 / 老化 |
研究実績の概要 |
本年度の研究計画として、脂肪組織特異的GSNOR-Tgマウスと肝臓特異的GSNOR-KOマウスおよび培養細胞を用いて、 S-ニトロソ化がメタボリックシンドロームの発症を惹起するメカニズムを解析することを予定していた。具体的には、以下の項目について準備・実施した。 ⅰ) 培養細胞を用いた、DNAおよびヒストンメチル化/脱メチル化酵素のうちS-ニトロソ化される酵素の同定。 ⅱ) Ad-GSNOR-TgマウスおよびGSNOR-KOマウスを用いて、S-ニトロソ化がエピジェネティクスに与える影響の解析。 項目i)に関しては、培養細胞にNOドナーを作用させたサンプルとDMSO(溶媒のみ:コントロール)を作用させたサンプルを用いて、S-ニトロソ化されるタンパク質の網羅的解析を行い、DNAおよびヒストンメチル化/脱メチル化酵素を同定するに至った。さらに確認のため、同定されたタンパク質にFLAGタグをつけ、哺乳細胞で発現するベクターを作成し、過剰発現系において当該タンパク質がS-ニトロソ化されるか否か確認した。これにより、複数の酵素がS-ニトロソ化されることを見出した。 項目ⅱ)に関しては、Ad-GSNOR-Tgマウスを用いて検討したところ、体重および血糖値に差が見られなかった。現在、高脂肪食を負荷して検討している最中である。また、肝臓特異的GSNOR-KOマウスの作成に遅れがでており、当該年度中の解析ができなかった。しかしながら、系統の確立には成功したため、次年度以降に解析を行うことを予定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況はおおむね順調である。Ad-GSNOR-TgマウスおよびGSNOR-KOマウスを用いて、S-ニトロソ化がエピジェネティクスに与える影響について解析することを予定していたが、脂肪組織特異的GSNOR-Tgマウスのフェノタイプの1つとして予想していた血糖降下作用が当初予想したほど見られず、高脂肪食負荷による検討を始めたところである。また、肝臓特異的GSNOR-KOマウスについても、その作出に時間がかかり当該年度中の解析ができなかったが、現在、系統が確立されたため繁殖をすすめており、次年度以降に解析する予定である。 一方、培養細胞を用いたS-ニトロソ化されるDNAおよびヒストンメチル化/脱メチル化酵素の同定においては、網羅的検索が当初の予定よりも順調にすすんだ。そのため、次年度以降に予定されていた発現ベクターの構築を行い、過剰発現系を用いた検討を行うことができた。その結果、複数のメチル化/脱メチル化酵素が実際にS-ニトロソ化されることを確認した。今後、同定された酵素が関わる疾患について文献による調査をすすめ、ニトロソ化との関連を明らかにしてく予定である。 また、当該年度において同時並行ですすめていたS-ニトロソ化を軽減する可能性のある化合物の検索であるが、培養細胞系で検討したところ、可能性のある天然由来の成分の発見に至った。そのため、現在、動物に投与することによっても効果が得られるか検討する計画を立てている。
|
今後の研究の推進方策 |
29年度の研究推進の方策として、以下の項目について計画している。1)前年度に実施予定であった脂肪組織特異的GSNOR過剰発現マウスを用い、高脂肪食負荷による検討を進めるとともに、肝臓特異的GSNOR-KOマウスを用いてインスリン抵抗性改善作用が認められるか検討する。2)当初の予定通り同定したメチル化/脱メチル化酵素がS-ニトロソ化を介する代謝(メタボリック)・リプログラミング機構、およびシグナル伝達機構を制御している可能性について、クロマチン免疫沈降(ChIP)解析および次世代シークエンス技術などを用いて包括的な検討を行う。3)各種遺伝子改変動物および培養細胞で得られたデータ・現象がヒトにおいても起こり得るかについて、臨床サンプルを用いて確認する予定である。具体的には、肥満症あるいは糖尿病患者の脂肪組織とこれら疾患の既往歴の無い健康なヒトの脂肪組織において、前年度までに同定した新規S-ニトロソ化タンパク質を中心に比較、解析する。転写因子のS-ニトロソ化とインスリン抵抗性発症の関連に関する解析を行い、疾病の早期診断・治療への応用が可能か検討する。4)S-ニトロソ化を軽減する可能性のある化合物を肥満糖尿病モデル(ob/ob)マウスに投与し、iNOSによるS-ニトロソ化を起因としたインスリン抵抗性の改善が観察されるか検討する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
未使用額が少額であり、適当な試薬類を購入するには不十分であったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越して、試薬類など消耗品の購入に使用する予定である。
|