研究課題/領域番号 |
16K19055
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
山田 顕光 横浜市立大学, 医学研究科, 客員研究員 (90567603)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 乳癌 / ABC輸送体 / スフィンゴシン1リン酸 / 微小環境 |
研究実績の概要 |
ABC輸送体はこれまで薬剤排出輸送体として癌治療抵抗性との関連が主に報告されている。申請者は「ABC輸送体C11(ABCC11)発現を有する乳癌の予後が不良であること」を報告してきたが、その機序についてはいまだ明らかになっていない。一方、新規脂質メディエ―ターであるスフィンゴシン1リン酸(S1P)は、細胞内での生成・細胞内から外への排出・受容体への結合を経て細胞増殖・浸潤や免疫細胞や脈管細胞の遊走に寄与する。申請者らは「S1Pが乳癌微小環境形成に寄与していること、炎症性サイトカインのフィードバックを引き起こすこと」などを解明してきた。本研究では、乳癌におけるABC輸送体によるS1Pの排出に注目し、「S1Pは細胞内で生成されるだけではその作用は十分に発揮されず、細胞外に汲みだされたS1Pによって腫瘍自身の増殖が促進され、また癌の微小環境が整えられることで乳癌の発育が促進される」という仮説を立て、本研究を企画した。平成28年度は、乳癌細胞を用いてABC輸送体過剰発現・siRNAおよびABC阻害薬によるABC発現抑制・作用抑制実験を行い、細胞内外のS1P濃度を測定することでABCC11がS1Pを細胞外に排出する輸送体であることを明らかにした。さらに選択培地を用いてABC輸送体安定過剰細胞を樹立し、ABC輸送体一過性過剰発現細胞とともに、ABC輸送体発現多寡によるS1Pシグナル経路の活性の変化の解析、および増殖・浸潤・生存といった細胞の生物学的特徴の変化の解析を行った。S1Pを排出するABC輸送体が過剰発現している乳癌では細胞の増殖や遊走能などが亢進することを明らかにした。また、乳癌手術検体におけるABC輸送体やS1P関連因子の免疫組織学的染色の条件設定を行った。 乳癌及びS1Pに関する研究を国内学会で発表し、科学論文に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は主に研究Ⅰ、およびⅡ・Ⅲの予備実験を行い概ね計画取りに進んでいる。以下に進捗状況の詳細を記載する。 研究Ⅰ ABCC11の発現多寡によるS1Pシグナル経路の活性の変化の解析、および増殖・浸潤・薬剤耐性といった細胞の生物学的特徴の変化の解析:ABCC11過剰発現乳癌細胞を用いた基礎実験によって、ABCC11がS1Pを放出していることが確認された。またS1P排出ABC輸送体を過剰発現している細胞は、正常細胞や非S1P排出ABC輸送体過剰発現細胞と比べて、増殖・遊走・生存能などが亢進することが確認された。 研究Ⅱ ABCC11過剰発現乳癌細胞を用いたマウス同所移植モデルによる、微小環境解析:マウスへの同所移植モデルで使用するヒトおよびマウス乳癌細胞に、選択培地を用いてABC輸送体安定過剰発現細胞を樹立した。 研究Ⅲ ヒト乳癌組織におけるS1Pシグナル系と微小環境との関連の検証:ABC輸送体およびS1P関連因子の免疫組織学的染色法による発現解析のため、各種抗体の至適条件設定およびプロトコールを作成した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は主に研究Ⅱについて研究を継続し、研究Ⅲについても研究を開始する。 研究Ⅱ ABCC11過剰発現乳癌細胞を用いたマウス同所移植モデルによる、微小環境解析:前年度に確立したABC輸送体安定過剰発現乳癌細胞またはコントロールの乳癌細胞をマウスの乳腺に移植し、腫瘍の生物学的特徴、および癌微小環境における二群間の差異を検証する。S1Pは免疫細胞にも作用する脂質メディエーターであるが、ヒト乳癌細胞株を用いた異種移植では免疫系への働きを見ることができないため、腫瘍の増生や脈管新生・繊維芽細胞の増生に焦点を当てて解析する。一方マウス乳癌細胞を用いた同種異種移植では、異種移植で観察する微小環境因子に加えて免疫細胞に関する解析を検討している。腫瘍および間質中のS1P濃度を測定し、生体内におけるS1Pの濃度と乳癌微小環境との関連を検証する。また転移巣における病態解明のため、上記ABC輸送体安定過剰発現乳癌細胞懸濁液を尾静脈から注入する肺転移モデルでの検証も検討している。 研究Ⅲ ヒト乳癌組織におけるS1Pシグナル系と微小環境との関連の検証:前年度に引き続き条件設定を行い、既存の組織マイクロアレイを用いて約300名の乳癌組織におけるABC輸送体とS1P関連因子の発現解析を行い、乳癌サブタイプや予後との関連を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は大学の学内研究費で購入した物品を代用したため、予定していた金額よりも安く抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は同種/異種同所移植モデルによるin vivoの実験によって、ABC輸送体とS1P関連因子の腫瘍微小環境に対する影響を解析する。またヒト検体におけるABC輸送体とS1P関連因子の発現解析を免疫組織学的染色によって行う。
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