研究実績の概要 |
多発性骨髄腫(MM)は, モノクローナルな免疫グロブリン(M 蛋白)の存在と溶骨性変化や腎障害などの臨床症状を特徴とした, B 細胞の最終分化段階である形質細胞の腫瘍性疾患である.近年, 新規薬剤である免疫調節薬(IMiDs)サリドマイド, その誘導体であるレナリドミド, ポマリドミドなどが登場し, 多発性骨髄腫患者の生存率は改善してきている.しかしこれらのIMiDs をもってしても治療抵抗性を示す多発性骨髄腫も存在する. 我々は多発性骨髄腫患者由来の多発性骨髄腫細胞株において, レナリドミドの標的分子であるCRBNの基質の分解が起こっても細胞死を誘導しない細胞株を見出している. そこで, その耐性機序を明らかにすることで新規治療の開発に繋げていくことを目的としている. これまでに遺伝子及びタンパク質の網羅的解析を行うにあたり, レナリドミドの濃度及び処理時間について条件検討を行った. 次にこの最適条件下において, 遺伝子発現量について網羅的に解析するためにDNA microarrayを行った. 得られた結果からレナリドミド感受性細胞株で上昇している遺伝子やレナリドミド耐性株で上昇している遺伝子についてクラスター解析及びGSEAを行った. さらにいくつかの遺伝子については, タンパク質での発現量に違いがあるのかについてもWestern blot法により検討した. これらの結果より差があった遺伝子についてノックダウン細胞株の樹立を行い, レナリドミドに対して感受性や抵抗性を示すようになるのかについて検討を行っている. さらにタンパク質差異の網羅的な解析については, 2D-DIGE及びMALDI/TOF-MSを用いてタンパク質の同定を行っている段階である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の平成28年度研究計画は, IMiDs(レナリドミド)感受性株と耐性株とで差異のある分子の網羅的同定を行い, 続いて同定した蛋白質のレナリドミド誘導細胞死への影響に関して, 過剰発現細胞株およびノックダウン細胞株の樹立, レナリドミド誘導細胞死への影響について検討を行うことであった. 実際の状況は,レナリドミド感受性と耐性株で差異のある遺伝子については網羅的に解析が終わり, 一部の遺伝子についてはノックダウン細胞株を作製し, レナリドミド誘導細胞死について影響を及ぼすのか検討する段階となっている. またタンパク質の網羅的解析も同様に行っており, IMiDs耐性の分子機構の解明という目的においておおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は下記の通り遂行する. 1.同定した分子のノックダウン細胞株の樹立の続きと実際にレナリドミド誘導細胞死への影響を検討する. 2.影響があった分子についてCRBN 依存的に分解されるのかを調べ, 既存の細胞死誘導機構と違いがあるのかを明らかにする. (1)CRBN 依存的に同定蛋白質が分解される場合には, レナリドミド抵抗性細胞株で他の蛋白質による阻害が推測されることから, その阻害蛋白質について免疫沈降法やMALDI/TOF-MSなどを用いて同定し,その分子機構の解明を行う.(2) CRBN 依存的に同定蛋白質が分解されなかった場合には, これまでに報告のある分子機構とは全く異なるため, そのタンパク質のレナリドミド誘導細胞死に対する寄与について,リン酸化などの修飾を含め解析を行う. 3. 我々がこれまでに合成したTC11 の分子機構がIMiDsとは異なる機序により細胞死を誘導することが考えられているが, まだ詳細な機序についてはわかっておらず, その分子機構について解析を行う.さらに, IMiDs 耐性に関与する分子をノックダウン及び過剰発現したMM 細胞株が, TC11 処理で細胞死を誘導できるのかを検討する. 4.IMiDs耐性に関与する分子が実際にin vivo において腫瘤形成能やレナリドミド耐性に寄与するのか検討するために, 上記で作製した過剰発現細胞株およびノックダウン細胞株をSCIDマウスの皮下に投与し, 腫瘤形成やレナリドミドの効果を経時的な腫瘍径の測定および免疫組織学的に検討する.さらに, TC11 についてもその腫瘍を退縮させることができるのか経時的な腫瘍径の測定および免疫組織学的に検討する.
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