研究課題/領域番号 |
16K19064
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
大熊 敦史 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がん生物部, 研究員 (70726059)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | MDSC / CDKI / ケモタキシス |
研究実績の概要 |
本研究課題は、担がんマウスにおいて、myeloid-derived suppressor cell (MDSC)が、Cyclin-dependent kinase inhibitor (CDKI)であるp16Ink4a及びp21Cip1/Waf1を発現していることの意義についての解析である。これまでに、p16/p21 double knockout (DKO)マウスでは、MDSCの機能低下により移植したがん細胞の増殖が遅く、腫瘍部でのmonocytic (Mo)-MDSCがp16/p21 DKOマウスで少ないことが判明している。 MDSCの主な機能である免疫抑制能は、p16Ink4a及びp21Cip1/Waf1の有無によって変化はなかった。しかし、Mo-MDSCのintravenous とintratumorの二種類の方法でのadoptive transferによって、in vivoでのMo-MDSCの遊走能の変化は腫瘍の進展に直接的に関わることが示された。RNA-seqの結果からケモカインレセプターのCX3CR1がp16/p21 DKOマウス由来のMo-MDSCで発現が低いことが判明し、その後CX3CR1のリガンドであるCX3CL1に対する中和抗体を使った実験や、CX3CL1ノックダウンした細胞株の移植実験などから、CX3CR1の発現を介してp16Ink4a及びp21Cip1/Waf1はMo-MDSCの腫瘍への遊走を促進していることが判明した。また、p16Ink4a及びp21Cip1/Waf1によるCX3CR1の発現制御は、CDK2/4によるSmad3のリンカー部位のリン酸化が関与していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、担がんマウスにおいて、myeloid-derived suppressor cell (MDSC)が、Cyclin-dependent kinase inhibitor (CDKI)であるp16Ink4a及びp21Cip1/Waf1を発現している意義についての解析である。 研究計画として平成28年度実施予定だった「MDSCの免疫抑制能の測定」、「MDSCの遊走能の変化が腫瘍の進展に影響及ぼすのかをin vivoで評価」、「RNA-seqによる遺伝子発現変化の網羅的解析」だけでなく、次年度計画していた「候補因子・候補経路の評価」も完了した。これらの結果から、p16Ink4a及びp21Cip1/Waf1のMDSCにおける機能とその分子メカニズムの全容が示された。よって当初の計画以上に進行している。また、これまでの成果をまとめ論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策は、当初の計画通り「CDK阻害薬の副作用の可能性の明示」に取り組む。CDKの阻害を目的とした低分子化合物は抗がん剤として注目を集めているが、今回のデータからは、p16Ink4a及びp21Cip1/Waf1の思いもよらぬMDSCにおける機能が示唆されており、CDK阻害薬がMDSCに作用することでがんの進展が促進されるケースがあるのではないのかと懸念される。そこで、RBを失活させるSV40 Large T抗原を過剰発現させ、CDK阻害剤の作用を受けないようにRB以下の経路が失活しているがん細胞株を樹立し、マウスに移植、様々な種類のCDK阻害薬を投与することで、腫瘍の進展が促進されるケースがあるのか調査する。このとき、腫瘍内のMDSCやcytotoxic T lymphocyte (CTL)の数の変化やその活性に注目して、CDK阻害薬とがん免疫の新たな繋がりを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に係るマウスの使用数が当初の予定よりも少なくて済んだことと、RNA-sequenceの外注費用が想定よりも大幅に安く済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度より、大阪大学微生物病研究所に所属が変わったことで、新しい施設で動物実験の立ち上げ費用が加算される。本年度の主な実験計画は、CDK阻害薬のがんに対する影響の評価をin vivoで行うことであるため、多数のマウスとCDK阻害薬各種を相当量必要とする。また、本研究をまとめた投稿中の論文の投稿料に対しても、この次年度使用額を有効利用する。
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