研究課題
ボルナ病ウイルス(BoDV)ベクターは、iPS細胞を含む様々な幹細胞に対して、分化能に影響を与えず、ゲノム非侵襲性に遺伝子を長期間導入することが可能な新しいツールである。本ベクターの特徴を活かし、難治性遺伝子疾患の幹細胞治療を実現する新しい長期安定型遺伝子発現デリバリーシステムを構築することを目的に研究をおこなった。昨年度は、X染色体上のサイトカインレセプター共通γ鎖(IL2RG)の変異により、T細胞とNK細胞がほとんど産生されずB細胞が機能不全を起こす難治性遺伝子疾患である、X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)への遺伝子治療の有効性を評価するため、原因遺伝子であるIL2RG(ヒトまたはラット)を発現する伝播型および非伝播型のボルナウイルスベクターを作製した。同ベクターは目的の遺伝子を安定的に発現したが、標的細胞である造血幹細胞への導入効率が低かったため、本年度では同ベクターの改良を試みた。非伝播型BoDVベクターの表面に発現するG蛋白質を、BoDVと近縁の鳥ボルナウイルスの7遺伝子型に各々置換したベクターを作製して外来遺伝子の導入効率そ評価した。その結果、カナリアボルナウイルス1型のGを用いたベクターはBoDVと比較して効率が15倍上昇した。同改良型ベクターは、ラット初代培養細胞およびヒトiPS細胞に対しても、従来型と比較して導入効率を有意に上昇させた。またBoDVのRNA依存性RNAポリメラーゼの補因子であるP遺伝子を近縁のカワリリスボルナウイルスの配列に置換したBoDVベクターは、導入効率およびウイルス回収効率を有意に上昇させた。これらのことから、本研究で作製した改良型BoDVベクターは、幹細胞遺伝子治療の新しいプラットフォームになりうると考えられた。
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Virology Journal
巻: 14 ページ: 126
doi: 10.1186/s12985-017-0793-6.