研究課題/領域番号 |
16K19073
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齊藤 涼子 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30733349)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒト肺腺癌 / EGFR-TKI耐性 / 化学療法耐性 / HIF-1α / EMT |
研究実績の概要 |
1.化学療法抵抗性肺腺癌細胞株:EGFR (epidermal growth factor receptor) 遺伝子変異陽性のヒト肺腺癌細胞株であるPC-9にシスプラチン(CDDP)とペメトレキセド(PEM)を継続投与し、3ヵ月投与現在、CDDPに対する有意な耐性獲得が確認でき、CDDP耐性株が樹立できた。PEMについても投与を継続し耐性獲得を目指している。2.EGFR-TKI (EGFR tyrosin kinase inhibitor) 耐性肺腺癌と化学療法感受性:①HIF-1α(hypoxia-inducible factor-1α):非低酸素下にてHIF-1α高発現を示すEGFR-TKI耐性株の存在が確認できた。これらはCDDP, PEMいずれにもEGFR-TKI感受性株に比し有意な耐性を示した。si-RNAを用いたHIF-1αノックダウンによりCDDP感受性が有意に改善した。PEMについては検討中である。以上よりEGFR-TKI耐性株における化学療法感受性へのHIF-1αの関与が明らかとなった。②HIF-1αと臨床病理学的相関:ヒト肺腺癌89例に対するHIF-1αの免疫組織化学の結果、HIF-1α高発現群が予後不良因子であることが明らかとなった。③EMT (Epithelial-Mesenchymal transformation) :化学療法耐性EGFR-TKI耐性株は形態的に間葉細胞様の変化を示し、さらにvimentinの増加やE-cadherinの減少などが観察され、EMTが生じていることが示唆された。TGFβ1 (Transforming growth factor) をPC-9に投与しEMTを誘導したところ、CDDP, PEM感受性が有意に低下し、EMTもEGFR-TKI耐性株における化学療法感受性に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、化学療法耐性肺腺癌株の樹立に成功した。また、当初の仮説通り、HIF-1αがEGFR-TKI耐性株の化学療法耐性獲得に重要な役割を果たしていることが証明された。研究を進める過程で、その機序にEMTが関与していることが新たな発見となったが、EMTとEGFR-TKI耐性株の化学療法耐性獲得についても有意なデータを得ており、研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.化学療法耐性肺腺癌細胞株を用いたマイクロアレイ解析:今回樹立した化学療法(CDDP)耐性肺腺癌細胞株、および樹立予定であるPEM耐性肺腺癌細胞株を用いてマイクロアレイを行い、増殖、遊走、浸潤などに関わる因子を中心に網羅的な解析を行い、化学療法耐性誘導に関与する因子についてさらに詳細な検討を行う予定である。2.マイクロアレイによって抽出された因子について、それらの発現をノックダウンあるいは亢進させることによって、増殖、郵送、浸潤などの機能解析を進める。3.HIF-1αとEMT:今回の実験によってHIF-1αとEMTがEGFR-TKI耐性株の化学療法感受性に関与していることが明らかとなった。過去の文献にて、HIF-1αがEMTを誘導することが報告されている。したがって、EGFR-TKI耐性株の化学療法耐性獲得の機序にHIF-1α-EMT経路が関与していることを新規制のある仮説として考えており、現在検討を継続中である。具体的には、プラスミドを用いてHIF-1αをヒト肺腺癌株 (EGFR-TKI感受性株と耐性株いずれも用いる予定である) に過剰発現させる。さらにこれらを用いてPCRアレイにてEMT関連因子の変動を網羅的に検討する予定である。ここで抽出された重要な因子に着目し、最終的に化学療法感受性に関わる最も重要な因子を発見することを目標としている。EMTについては研究過程で生じた新たな検討となっているが、他は概ね当初の予定通りの計画となっている。
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