前年度までの検討から、EGFR-TKI (EGFR tyrosin kinase inhibitor) 耐性ヒト肺癌組織においてHIF-1α (hypoxia-inducible factor-1α) が化学療法耐性獲得に重要な役割を果たしていることが証明された。さらに、その機序にEMT (Epithelial-Mesenchymal transformation) が関与していることが新たな発見となった。 以上の結果を元に、H29年度は以下の検討を行った。まずヒト肺癌培養細胞株にHIF-1αをトランスフェクションし、EMT関連因子が増加することを確認した。 続いて、HIF-1αの制御因子についてEGFR-TKI耐性株を用いたマイクロアレイ解析の結果を検討したところ、我々はp22phoxという因子の発現が耐性株において非耐性株に比し有意に増加していることを見出した。p22phoxは細胞膜貫通型酵素でありROS (Reactive Oxygen Species) を生成する。ROSは生体内でセカンドメッセンジャーとして働き、その応答因子の1つにHIF-1αが含まれている。 まず、siRNAを用いてEGFR-TKI耐性肺腺癌細胞株のp22phoxをノックダウンしたところ、HIF-1αのmRNA発現減少および化学療法耐性減少が認められた。さらにグルタチオンレベルのROS検出を行ったところ、これらの変化がROSを介した現象であることが確認された。 以上より、EGFR-TKI耐性肺腺癌組織において、化学療法耐性獲得のキーファクターであるHIF-1αがp22phoxによるROSを介した経路によって制御されていることが初めて明らかとなった。現在、p22phoxと化学療法耐性関連因子との相互作用を見出すため、前年度に樹立した細胞株を用いてマイクロアレイを施行中である。
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