研究課題/領域番号 |
16K19074
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 浩幸 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40708632)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 胃癌 / ARID1A / EZH2 / EBV |
研究実績の概要 |
1)ARID1A遺伝子変異により変動する遺伝子の更なる同定と治療標的の探索 胃癌細胞株MKN74及びNUGC3でARID1AのsiRNAによるノックダウンを行い、48時間後に回収したRNAを用いて、microarrayにより発現の変動する遺伝子を探索した。その結果、ノックダウンにより両細胞株で共通して発現が上昇する遺伝子を約200個余り同定した。これはノックダウン24時間後に回収したRNAでmicroarray解析を行った際に検出された遺伝子数(約15個)よりも極めて多く、ARID1A発現低下による細胞の反応には48時間程度の時間が必要であることが示唆された。Gene Ontology解析では細胞周期、細胞増殖、DNA複製に関わる経路がenrichされていた。 2)ARID1A発現低下がEBV感染を促進するメカニズムの解明 上記1)の結果を踏まえ、ARID1A発現低下がウイルスの細胞内での増殖を促進する可能性を考慮し、ARID1Aノックダウン後にEBVを癌細胞に感染させると、ノックダウンなしの場合に比べ癌細胞中のEBVコピー数が増加するのではないかと考えた。そこでEBNA1/GAPDH比のRT-PCR法による測定を試みた。しかしウイルスDNAコピー数(EBNA1コピー数)の増加は認められず、ARID1A遺伝子変異がEBV胃癌に多い理由は他にあると考えられた。 3)EZH2による癌細胞の変化 既にEZH2ノックダウンにより胃癌細胞株、特にEBV感染胃癌細胞株で細胞増殖が低下することを我々は確認していたが、近年になりGlioblastoma細胞株でEZH2がSTAT3をメチル化して活性化させるという報告があったため、胃癌細胞株においても免疫沈降法による検討を行った。その結果、EBVを感染させた胃がん細胞株においてEZH2とSTAT3の直接の相互作用、及びSTAT3のメチル化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ARID1Aノックダウンにより発現が上昇する遺伝子を多数同定することができた。この中には細胞周期やDNA複製に関わる遺伝子が多数含まれており、EBV感染とウイルス増殖にも関わる遺伝子が含まれている可能性が高く、ARID1A発現低下がEBV感染効率を高めるメカニズムの解明につながる可能性がある。 またEZH2が癌細胞の増殖を促進するメカニズムの一つとして、STAT3メチル化を確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ARID1Aノックダウンによる癌細胞1個あたりに含まれるウイルスコピー数の増加は確認できなかったが、今後はウイルスゲノムが細胞内で安定して増幅するメカニズムとの関連やアポトーシスの回避等に着目し、ARID1AがEBV関連胃癌の成立を促進するメカニズムを明らかにしたい。なお我々はこれまでの検討から胃癌におけるARID1A変異、発現消失の意義は発癌の初期段階で作用していると考えており(Abe H et al. Virchows Arch 2012)、胃の非腫瘍組織でのARID1A発現の状態についても、外科手術材料を用いた免疫組織学的検討を進めていく予定である。 EZH2に関しては、EBV関連胃癌での発現亢進とEBV関連胃癌細胞の増殖における重要性が明らかになりつつあり、成果をまとめる予定である。 EZH2とARID1Aの相互作用について、siRNAによるノックダウンや阻害剤により両者の働きを阻害した場合にどのような変化が生じるか、胃癌細胞株を用いた実験的検討を試みたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外学会発表を行わず,次年度に行う方針となったため,旅費が当初予定より少なくなった. また論文投稿に伴う諸費用(英文校正等の人件費,投稿料など)も次年度に使用する予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は海外発表を1-2回予定しており,旅費が発生する予定である. 論文投稿に伴う英文校正費用,投稿料等に費用が発生する予定である. また本年度は多数症例の免疫染色も予定しており,試薬等に必要な金額も本年度に比較し増加する予定である.
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