(1) ARID1Aについて 平成29年度は特に発癌初期におけるARID1A変異と発現低下の意義を解明するため、多数の外科手術症例において非腫瘍性胃粘膜のARID1A発現低下を免疫組織学的に解析した。具体的には77症例の外科的胃切除検体の背景粘膜(小弯)に対し免疫染色を行い、17症例の23か所において形態学的には非腫瘍性だが上皮のARID1A発現が消失している粘膜(1腺管~数mm程度までの微小な病変)を見出した。また手術例3例について胃を全割してARID1Aの免疫染色を行ったが、やはり複数のARID1A消失病変が認められた。比較のためTP53の免疫染色も行ったが、ARID1Aより低頻度であるもののTP53過剰発現を示す腺管を見出した。これらはゲノムシークエンス研究で非腫瘍粘膜から低頻度でTP53やARID1A遺伝子変異を検出したという他施設からの報告(Shimizu T et al. Gastroenterology 2014)を形態学的側面から裏付けるものであり、重要な知見と考えられた。 また近年日本でも増加傾向のあるバレット食道及び食道腺癌についてもARID1Aの意義を調べるべく、症例豊富なドイツへ赴き免疫組織学的検討を行った。 (2) EZH2について 28年度までの検討で、siRNAによるEZH2発現低下がEBV感染胃癌細胞株の増殖を強く抑制し、またEZH2はSTAT3と相互作用していることが示された。そこでEZH2の臨床検体(胃癌切除検体)での発現を調べるため、約300例の胃癌Tissue microarrayを用いてEZH2発現の臨床病理学的意義を解析した。その結果、EZH2の発現が非EBV関連胃癌よりEBV関連胃癌に多いことが再確認された。またEBV関連胃癌の中でも特にEZH2がびまん性に高発現を示す一群は、予後が不良であることを見出した。
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