研究課題
近年の解析結果から、肝細胞癌の発生・進展過程では、他の癌腫同様にゲノム変化だけでなくエピゲノム変化も多数蓄積していることがわかっている。本研究では、エピゲノム変化の一つとして、クロマチン構造の変化に注目し、凍結組織検体を用いて、in vivo FAIRE-seq (Formaldehyde-Assisted Isolation of Regulatory Elements followed by next generation sequencing) を行った。そして、肝癌凍結手術検体の癌・非癌部におけるヌクレオソーム・フリー領域の分布をゲノムワイドに同定し、癌部、非癌部に特異的なヌクレオソーム・フリー領域があること確認した。さらに、肝細胞癌の主要なドライバー遺伝子であるβ-cateninに注目し,β-catenin変異症例に特異的なヌクレオソーム・フリー領域を同定した。培養細胞(HepG2)のChIP-seq (Chromatin Immunoprecipitation followed by next generation sequencing ) の結果から、これらの領域にβ-cateninの結合があることが確認した。これらの結果から、β-cateninの新規新規標的遺伝子候補が同定され、さらに網羅的遺伝子発現解析(mRNA-sequencing)の結果から、こららの遺伝子発現がβ-catenin変異症例で高いことを確認した。候補遺伝子の中で、近年その機能が解明されつつある遺伝子Xに注目し、研究を進めている。
2: おおむね順調に進展している
RNA-seq(mRNA-sequencing)の結果から、候補遺伝子の発現がβ-catenin症例で有意に高いことを確認した。この中で、最近注目されている遺伝子(遺伝子Xとする)に注目して研究を進めており、遺伝子Xの臨床病理学的特徴を検討をしている。具体的には、200例以上の肝細胞癌症例を用いて構築した組織アレイを用いて、酵素抗体法により、遺伝子Xの免疫組織化学的検討を行った。そして、遺伝子Xの発現の有無による、主要な病理学形態学的因子(腫瘍径、分化度、脈管侵襲)との相関、予後との関連を調べている。上記研究と並行して、主要な肝悪性腫瘍である肝内胆管癌の研究も行っている。多数例(100例以上)の肝内胆管癌を用い、S100P、CD56、NCAMの免疫組織化学染色、Alcian-Blueの特殊染色を行い、スコアリングにより、Type1、Tyep2による新たな分類を提唱した。また、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルから抽出したDNAからPCRおよびダイレクトシーケンスを行うことで、こららの分類が主要な遺伝学的特徴(IDH1/2、KRAS)を反映することを確認した。同時にType1が予後不良であることも見出した。さらに、追加の免疫組織化学的検討結果から、BAP1の発現消失がType2に特徴的であることを発見した。
今後は、継続して遺伝子Xの発現の有無による臨床組織学的意義を見出していく予定である。同時に、β-catenin変異肝癌細胞株であるHepG2やHuh6などを用いて、siRNAにより、遺伝子Xをノックダウンし、それにより増殖能、浸潤能、細胞形態像がどのように変化するかを観察する。ノックダウン前後の網羅的遺伝子発現解析(発現アレイあるいはRNA-seq)を行い、同遺伝子がどのような発現パスウェイに影響しているかも検討する予定である。また、上記と並行して行っている肝内胆管癌については、miRNAに注目した研究を進めている。TCGA(The Cancer Genome Atlas)などのオープンデータベースを用いて、Type1、Type2に有意に高発現のmiRNAを予想している。FFPEサンプルより抽出した数例のRNAを用いてmiRNAの発現アレイを実施するとともに、多数例のreal time qPCRを行い、この仮説を確認する。また、miRNAの発現自体が、予後や主要な病理形態学的因子を反映するのかも同時に検討する。さらに、siRNAを用いたノックダウンよる増殖浸潤能や細胞形態像の変化を観察する予定である。ノックダウン前後の網羅的遺伝子発現解析により、パスウェイ解析も検討している。
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