正常中皮のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)材料では,免疫組織化学的に,中皮細胞表面に6-硫酸化シアリルラクトサミンが発現している一方で,core 1 extension上のN-アセチルグルコサミンは硫酸化されていないことを突き止めた. また,この細胞膜に発現する糖鎖構造は中皮細胞が悪性腫瘍化しても保持されており,epitheloid・sheet-like・adenomatoid・sarcomatoid・desmoplastic といった様々な組織亜型の悪性中皮腫でも同様に発現していることが分かった. 一方で,中皮不死化細胞・悪性中皮腫細胞を計16株を用意し,細胞表面に発現している糖鎖プロファイルを検証したところ,6-硫酸化シアリルラクトサミンの構造発現は15株で確認できなかった.残り1株では発現が微量に確認できたが,core 1 extension上のN-アセチルグルコサミンの6位も硫酸化されていると考えられ,FFPE材料から類推された糖鎖構造とはdiscrepancyが生じた. 今後は生体から直接得られた材料を中心に解析する方針とし,ヒト正常胸膜を剖検時に採取して,中皮細胞に発現する糖鎖プロファイルを高速液体クロマトグラフィーならびに質量分析法で解析した.その結果,6-硫酸化シアリルラクトサミンの存在が確認でき,少なくともin vivo環境では6-硫酸化シアリルラクトサミンが中皮細胞膜上に発現していると考えられた.また同時に,シアル酸も硫酸化されている可能性が示唆された.特に硫酸化シアル酸を含む糖鎖が中皮細胞上に発現している点は,未知な部分が多い硫酸化糖鎖の生体内での発現分布や発現機構の解明に新たな知見を与えるもので,現在英語論文の投稿準備を進めている.また,論文への掲載の見込みが立ち次第,国内外での学会発表を予定している.
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