本研究では、アンドロゲン受容体(Androgen Receptor、AR)を発現する唾液腺悪性腫瘍、特に唾液腺導管癌に注目し、その治療法の開発を見据えた基礎研究を行った。藤田保健衛生大学病院で外科的切除を行い、病理学的に唾液腺導管癌と診断された15例を用いて、まずは免疫組織化学的に解析した。これまでの報告通り全症例でARの発現を認めた。興味深いことに、ARのco-factorとして知られている転写因子FOXA1も同様に全症例で発現を認めた。前立腺癌細胞では、ARとFOXA1は協調的に下流の遺伝子の転写を制御することが知られている。唾液腺導管癌においてもARとFOXA1が共発現していることから同様の分子制御が存在する可能性が示唆された。次に、唾液腺導管癌のパラフィンブロックの正常部と癌部それぞれからRNAを抽出し、mRNAマイクロアレイを行った。正常部と比較して、癌部で発現が上昇あるいは低下しているmRNAを選び、RT-qPCRでそれらの発現を確認した。新しい唾液腺導管癌のマーカー候補として、現在、免疫組織化学的に検索している。今後は、唾液腺導管癌の細胞株樹立を目指し、免疫組織化学的に実証できた遺伝子と、AR、FOXA1の関連について、分子生物学的に解析していく予定である。上記の解析で絞った解析候補については、アンドロゲン遮断療法を行った症例を用いて、治療前と後と発現を比較し、治療効果判定などに利用可能かどうか検証も行う。AR、FOXA1を中心とした唾液腺導管癌の遺伝子発現ネットワークを統合的に解析し、新たな診断マーカー、治療標的を同定する。
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