研究課題/領域番号 |
16K19099
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
笠島 理加 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 特別研究員 (20630875)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 前立腺癌 / 次世代シークエンサー / 遺伝子変異解析 / ネットワーク |
研究実績の概要 |
欧米人では前立腺癌の全ゲノム/トランスクリプトーム等を統合的に解析した成果が報告されている.一方,日本人では大規模な遺伝子異常解析の報告が欠如し,更に,前立腺癌の発がん機構には,欧米人(白人)と日本人との間で「地域差/民族差」があることが解っている.本研究では日本人の前立腺癌について次世代シークエンサーを用いて欧米症例の全ゲノム解析や全エクソーム解析で比較的多く変異が報告されている71種類のがん関連遺伝子変異解析を基に病理形態学的,分子腫瘍学的解析を加え,本邦前立腺癌に特徴的な発生機序の解明と,これに立脚した診断・治療の標的となる分子や統計学的な分子ネットワークの予測から個々のがん化経路や新たな分子経路の関わりを見出すことを目指した. 初年度は,次世代シークエンサーIon PGMによって見出した前立腺癌に関与すると考えられる71種類の遺伝子のエクソン上の変異をサンガー法で再確認した.その結果,約30種類の遺伝子上に変異があることを確認した.また、見出した変異をもつ遺伝子を中心とした大規模データベースとの比較解析から日本人の前立腺がんの特徴の抽出,更に統計学的に分子ネットワークの予測から個々のがん化経路や新たな分子経路の探索を行った.データ解析は現在進行中だが,他の癌腫と同様の経路が前立腺がんの発症に影響を与えていることを見出しつつある. 本研究により,欧米での研究が如何に進展しても解明できない,日本人における前立腺癌の遺伝子変異情報を明らかにすることで,日本人の前立腺癌患者の層別化及び各層に対応した診断技術,治療薬/治療法の開発を行うことで,優れた効果が期待できる「日本人における前立腺癌の個別化医療の実現」に繋がる.本研究を通じて,個別化医療を行うための日本人における前立腺癌の遺伝子検査パネルを作製できる可能性も期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シークエンサーを用いた凍結21症例分の日本人前立腺癌の遺伝子変異解析およびサンガー法による確認を行い,本症例における変異を同定することができた. 現在,同定した変異をもつ遺伝子を中心とした大規模データベースとの比較解析を通じて日本人の前立腺がんの特徴の抽出および統計学的に分子ネットワークの予測から個々のがん化経路や新たな分子経路の探索を行っている.このようなデータ解析により,前立腺がんの発症に影響を与えていることを見出しつつある.よって,概ね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
日本人症例と他の民族間との比較解析:初年度で得られた変異やpathway解析の結果と,網羅的遺伝子変異/発現解析結果が報告されている白人の前立腺癌とを比較して,日本人における前立腺癌の特徴を推測する. 候補遺伝子の病理形態学的な手法による前立腺癌標本の解析:日本人に特徴的ながん化や悪性進展への関与が予想される遺伝子変異/異常を起こしたpathwayについて,病理形態学的な手法で解析を進める.具体的には,活性化/不活性化が予想されるpathwayの活性と関連するシグナルタンパク質のリン酸化型抗体及びその結果を用いて発現量が変化するタンパク質の抗体などによる免疫染色を行う.この過程で,前立腺癌の前立腺癌病変の増殖性炎症性萎縮(Proliferative Inflammatory Atrophy: PIA),高異型度前立腺上皮内新生物(High Grade Prostatic Intraepithelial Neoplasia: HGPIN)及びがんを比較し,それらががん化/悪性進展のどの時期に関わるのか検証する.また,既にTMPRSS2:ERG形成とSPOP遺伝子異常が解析されている前立腺癌106例のホルマリン固定パラフィン包埋組織を解析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、データ解析を主として行っており,配列の再確認を行うときに使用した試薬の量も当初予定していたより少なかった.また,試薬の使用期限がある為,必要な時にその都度購入する方が良いと判断した為である.
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次年度使用額の使用計画 |
データ解析の結果より,繰り越した予算を使って,病理形態学的に解析する為に免疫染色や個別化治療法を想定した前立腺癌遺伝子診断パネルの試作を行う予定である.
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