研究課題
肺動脈性肺高血圧症(PAH)の病態には、過剰な肺血管収縮に加え、肺血管リモデリングとして線維化やangiogenesisが関与するとされるが、詳細なメカニズムは不明である。肺血管構成細胞の反応として、内皮間葉転換(EndMT)を含めた細胞形質の変化が挙げられるため、低酸素曝露マウスやSugen5416+低酸素曝露マウス等の肺高血圧症モデルマウスを用いて解析を行った。これらのマウスの肺を摘出し、細胞分散後にフローサイトメトリーを行った。CD31+CD45-の細胞を内皮細胞と定義し、同細胞群の内で平滑筋細胞マーカーであるSMAも陽性となる細胞をEndMT細胞とした。2種類のモデルマウス間で内皮細胞増殖のタイミングや程度は同様であったが、EndMT細胞の検出はSugen+低酸素モデルで高率であった。また、内皮細胞におけるTnf-αやIL-10といった炎症性サイトカインの発現は同モデルマウスで有意に高く、ヒトのPAHに現状最も近いとされるSugen+低酸素モデルの内膜病変形成に関与することが示唆された。さらにEndMT細胞はCD34やCD133等の内皮前駆細胞マーカーが高発現することを既に報告しているが、前述のTnf-αの発現は90%以上で陽性であり、BrdUの取り込み率で評価した細胞増殖能はnon-EndMT細胞の約3倍まで上昇していた。一方、in vitroでの検討で、Sugen+低酸素刺激は内皮細胞の血管新生能を抑制し、内皮細胞の機能不全を示唆した。これらの結果よりEndMTは内皮前駆細胞様の形質を獲得させるが、一部機能不全を伴うことで異常な内膜病変を形成する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していたモデルマウス間での細胞動態の比較はフローサイトメトリーにて解析し、発現マーカーやサイトカイン産生の評価を進めてきた。in vitroでの血管新生能解析も順調に施行できており、H29年度の後半は遺伝子改変マウスの準備も行えたことから、予定通りの進捗状況と言える。実験手技は当研究室内でこれまで行われてきたものであるため、条件検討での時間の消費は最小限であった。当研究室内の他グループでも肺血管内皮細胞・肺高血圧に注目した研究を行っているため、グループ間での検討でも適宜修正可能である。
肺高血圧モデルマウスを用いて、内皮間葉転換(EndMT)の定量化、局在を検討してきたが、wild typeマウスの検討では内皮細胞マーカーと間葉系細胞マーカーが共陽性となる細胞の検出のみ可能であった。完全に間葉系細胞に転換した細胞の定量化も行うために、内皮細胞マーカーであるTie-2陽性細胞にGFPが発現したトランスジェニックマウスを用い、形質転換した細胞の追跡を行う予定である。これらの細胞群はGFPの発現から単離することも可能であり、機能解析も追加する。
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