研究課題
T細胞は胸腺にて分化し、細胞表面上のT細胞レセプター(TCR)によってαβT細胞とγδT細胞に分けられる。これまでにαβT細胞の分化メカニズムはよく研究されてきたが、γδT細胞の分化メカニズムや生理学的重要性は十分に理解されていない。γδT細胞は胸腺にてIL-17を産生するγδT17細胞に分化し、細胞表面上に発現するTCRVγ鎖に応じて異なる組織へ移行する。本研究ではγδT細胞のTCRシグナル伝達に関与する分子を同定し、γδT17細胞の分化メカニズムの解明を目的とした。γδT細胞のTCRシグナル伝達における重要な因子を同定するために、Zap70とSykに着目した。Zap70とSykは構造上相同な分子であり、前者はαβTCR直下で、後者はB細胞受容体や自然免疫受容体直下で機能するキナーゼである。新生仔胸腺から精製したγδT細胞にTCR刺激を誘導し、抗リン酸化チロシン抗体を用いて免疫沈降を行った結果、TCRシグナル依存的にZap70とSykがリン酸化されることがわかった。次に、Zap70とSykのγδT細胞におけるTCRシグナル伝達への関与を解析するために、各々の欠損マウスを作製した。Zap70を欠損するγδT細胞ではTCRシグナル伝達はほぼ正常であったが、Sykを欠損するγδT細胞では、TCRシグナル伝達が著しく障害されていた。そこで、γδT17細胞数を解析した結果、Zap70欠損マウスでは半減程度であったが、Syk欠損マウスではほとんど検出されなかった。以上の結果から、γδT17細胞の分化はSyk依存的TCRシグナルが必要であることが解明された。
2: おおむね順調に進展している
これまでαβTCR直下のキナーゼはZap70であると理解され、当初はγδTCRについても同様の動作原理によってTCRシグナルが伝達されると予測されていた。しかし、本研究成果から、γδT細胞では、主要なキナーゼはZap70ではなくSykであることが、遺伝子改変マウスの解析から明らかにされ、これまでのTCRシグナル伝達経路の理解を一変させうる発見に繋がった。現在のところ、γδTCR複合体内にZap70またはSykが会合していることを証明できておらず、今後の課題である。また、Sykが同定されたことで、γδT細胞の機能獲得とTCRシグナルとの関連性が明らかにされつつあり、IL-17だけでなく、他のサイトカインや機能分子についても解析の必要性が生じた。したがって、今後の研究を発展させるための重要な基礎データを構築することができたといえる。Syk欠損マウスは新生仔致死であるため、維持や実験に用いる個体数の確保が難しいが、ゲノム編集法の活用によって、Zap70欠損マウスやSyk欠損マウスを効率よく作製することができた。したがって、大幅な時間削減を実現し、予定通りのスケジュールで遺伝子改変マウスの表現型解析ができた。
平成28年度の研究成果からSyk依存的TCRシグナルがγδT細胞の分化や機能獲得に重要であることが同定されたため、次年度は計画通りにγδTCR下流の分子群の同定を試みる。本目的達成のため、TCRシグナル依存的に誘導される遺伝子群をRNA seqによるトランスクリプトーム解析を行う。トランスクリプトーム解析の結果を基盤に、パスウェイ解析を行う。TCRシグナル下流のMAPK、カルシウムシグナル関連分子とそれらのターゲット分子の発現を重点的に解析する。また、代謝経路やアポトーシス経路など予期しない経路が大きく変化した場合は状況に応じて柔軟に対応する。以上のトランスクリプトーム解析とパスウェイ解析を組み合わせ、Syk依存的TCRシグナル下流で機能する重要な分子の同定を試みる。以上の結果から候補遺伝子を絞り込み、遺伝子改変マウスをゲノム編集法によって作製し、γδT細胞の表現型解析を行う。
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The Journal of Immunology
巻: 197 ページ: 2269-2279
10.4049/jimmunol.1502486