研究課題/領域番号 |
16K19114
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
稲岡 健ダニエル 長崎大学, 熱帯医学・グローバルヘルス研究科, 助教 (10623803)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 寄生虫 / ATP合成 / ASCT / 生化学的解析 / 結晶構造解析 / ミトコンドリア様オルガネラ |
研究実績の概要 |
嫌気的な環境で生育する寄生虫が有する嫌気的ミトコンドリア(AM)、またはミトコンドリア様オルガネラ(MRO)ではTCA回路や酸化的リン酸化が消失または不完全な状態であり、ATP生産はAcetate:succinate CoA Transferase (ASCT)とSuccinyl-CoA synthase (SCS)に構成されるASCT/SCSサイクルによる、基質レベルのリン酸化に依存する。さらに、ミトコンドリアとは異なり、AMやMROの主な最終代謝産物として酢酸が挙げられ、ATPと酢酸はASCT/SCSサイクルにより生産されると考えられている。このサイクルは寄生虫に留まらず、AMやMROを有する真核生物で広く保存され、酸素量が限られている宿主内などの環境に適応するために重要なエネルギー代謝の一つであり、ATPの供給以外に、CoAの再利用や脂質合成に必要な酢酸も産生する非常に効率が良い経路である。ASCTの分子機構と整理機能を解析するため、ASCTのサブファミリー1A, 1B及び1Cの組換えタンパク質の作成を試みた。既に精製方法が確立しているTrypanosoma bruceiのASCT1Aとは異なりAscaris suumのASCT1BとTrichomonas vaginalisのASCT1Cは大腸菌発現量が低く、ASCT活性も検出されなかった。次に、TbASCTを用いて結晶化を行い、TbASCTを3.4アングストロームの分解能で構造を決定した。またTbASCTを用いてin vitroで「ASCT/SCSサイクル」の再構築を行いサイクルとしての活性測定の最適化を行った。その結果、酢酸の定量法より、CoAの定量法を用いた方が「ASCT/SCSサイクル」の活性を高い感度で測定できる事が分かった。TbASCTの活性部位の変異体作成は結晶構造の精密化が終了次第開始する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度はASCT1A酵素の大量精製、結晶化、in vitro「ASCT/SCSサイクル」の再構成実験を行う事が出来た。一方、28年度は長崎大学へ所属が移動し研究室も引っ越ししたため、当初予定していたASCTの点変異体作成のみ行う事が出来なかった。そのため自己評価を(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
29年度では、次の通りに研究を進める。①引き続きASCT1B及びASCT1Cの発現系構築を試みる。結晶化に関しては分解能が低いため②結晶化条件の最適化を行う。結晶構造解析を行う事によって活性部位を決定し、③酵素活性を触媒するために重要だと考えられる候補残基の点変異体を作成し解析する。また、④CoAの定量法を用いて「ASCT/SCSサイクル」の生化学的解析行う。⑤東京大学の化合物ライブラリーやPathogen boxライブラリー等のオープンソースライブラリーを活用して、ASCT1Aの阻害剤を探索する。見出した阻害剤を用いて⑥阻害キネティクス解析や複合体結晶構造解析を試み、阻害様式を決定しつつ、⑦ケミカルバイオロジーのツールとして用いて、原虫の増殖阻害等の「ASCT/SCSサイクル」が阻害された場合のフェノタイプ解析を行う。
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