研究課題
微小環境で生育する寄生虫が有する嫌気的ミトコンドリア(AM)、またはミトコンドリア様オルガネラ(MRO)ではTCA回路や酸化的リン酸化が消失または不完全な状態であり、ATP生産はAcetate:succinate CoA Transferase (ASCT)とSuccinyl-CoA synthase (SCS)で構成されるASCT/SCSサイクルによる基質レベルのリン酸化に依存する。さらに、ミトコンドリアとは異なり、AMやMROの主な最終代謝産物として酢酸が挙げられ、ATPと酢酸はASCT/SCSサイクルにより生産されると考えられている。このサイクルは寄生虫に留まらず、AMやMROを有する真核生物で広く保存され、低酸素環境に適応するための重要なエネルギー代謝の一つである。また、ATPの供給以外に、CoAの再利用や脂質合成に必要な酢酸を産生する高効率な経路である。29年度では、ASCTの分子機構と生理機能を明らかにするため、T. cruziのASCT及びヒトSuccinyl-CoA Transferase (SCOT)の詳細な生化学的解析と結晶構造解析を行った。結晶構造から推測された基質結合部位の点変異解析を行い、ASCTの活性部位および基質と相互作用する残基を同定した。「ASCT/SCSサイクル」の存在はこれまでも間接的に示されていたが、今回、TcASCTを用いてASCT/SCSサイクルをin vitroで再構築し、ASCTとSCSがサイクルとして機能する事を直接的に証明した。また、ASCTはヒトSCOTと52%のアミノ酸同一性を有するが、精製酵素を用いて、ASCTにはSCOT活性が無いこと、SCOTにはASCT活性が無い事も直接的に証明した。さらに、T. cruziの薬剤標的であるTcASCTを用いてHTS系を確立し、他のグループに先駆けて阻害剤1種類を見出した。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 7件) 備考 (1件)
Sci. Rep.
巻: 7 ページ: 6666
10.1038/s41598-017-06411-9
Protein Expr. Purif.
巻: 138 ページ: 56~62
10.1016/j.pep.2017.06.011
Biochim. Biophys. Acta (General Subjects)
巻: 1861 ページ: 2830~2842
10.1016/j.bbagen.2017.07.028
CYTOLOGIA
巻: 82 ページ: 317~320
https://doi.org/10.1508/cytologia.82.221
Open Forum Infect. Dis.
巻: 4 ページ: S121~S121
10.1093/ofid/ofx163.154
http://www.tmgh.nagasaki-u.ac.jp/study_at_tmgh/professors/inaoka_danielken?lang=en