研究課題/領域番号 |
16K19118
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
中村 梨沙 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (50645801)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 赤痢アメーバ症 / グループ2自然リンパ球 / Th2 サイトカイン |
研究実績の概要 |
赤痢アメーバ症は、腸管寄生原虫 Entamoeba histolytica(Eh) によって引き起こされ、腸管感染後、肝膿瘍等の重症化症状を呈する。赤痢アメーバの腸管感染では、感染早期から多量のTh2サイトカインが産生される。しかし、感染早期のTh2サイトカインの供給源と病態形成及び重症化における役割は不明である。本研究は多量のTh2サイトカインを産生する新規リンパ球、グループ2自然リンパ球(ILC2)に着目し、赤痢アメーバ症の病態形成と重症化におけるILC2の役割を解明する。 本年度は、赤痢アメーバの腸管感染後、全身性及び感染局所におけるTh2サイトカイン産生を確認し、産生細胞の同定とILC2の動態解析に努めた。 CBA/Jマウスの虫垂にEhを感染後7、14日目に腸管のHE染色を行い組織を観察したところ、継時的に粘膜固有層の肥厚、リンパ球浸潤及び腸管上皮の脱落が確認できた。この時の腸間膜脂肪リンパ組織(FALC)及び大腸粘膜固有層のILC2数は、感染後7,14日に増加し、21日目に減少していた。このことから、病態形成に伴って感染局所でILC2が増加することが明らかとなった。ILC2はIL-25, IL-33の刺激で活性化し多量のILC2を産生する。そこで、感染後FALC及び大腸粘膜固有層リンパ球(LPL)を回収しリコンビナントIL-33で刺激後、IL-5,IL-13産生が増加した。さらに、LPLにて赤痢アメーバ抗原特異的CD4T細胞による顕著なIL-5産生が見られた。これらの結果により、抗原特異的CD4T細胞のみならずILC2が感染局所で増加しており、Th2サイトカインの供給源である可能性が示唆された。 さらに本年度は、赤痢アメーバの経門脈感染マウスを用いて、赤痢アメーバ症の重症化病態である、アメーバ性肝膿瘍の病態形成におけるILC2の役割についても興味深い結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤痢アメーバの腸管感染マウスの解析により、感染局所及びFALCにおいて継時的にILC2が増加していることを明らかにできた。この感染局所のILC2が多量のIL-5,IL-13産生能を有することも確認できた。また、主要なTh2サイトカイン産生細胞である、CD4T細胞のIL-5,IL-13産生を細胞内染色法により解析し、赤痢アメーバ抗原特異的CD4T細胞は顕著にIL-5を産生することも明らかとなった。このことから、抗原特異的CD4T細胞はTh2サイトカインの供給源であるが、ILC2も感染局所におけるIL-5、IL-13の重要な産生源である可能性が示唆された。 感染後の腸管におけるILC2活性化サイトカイン、IL-25及びIL-33産生を今後検討しなければならないが、本年度の研究計画であった腸赤痢アメーバの病態形成におけるTh2サイトカイン産生細胞の同定とILC2の動態を追うことができた。 さらに、アメーバ性肝膿瘍のマウスモデルを赤痢アメーバの経門脈感染を用いて確立することができた。これは、腸赤痢アメーバに加え今まで免疫学的解析が進んでいなかったアメーバ性肝膿瘍の病態を解析する糸口になると考える。経門脈感染マウスでは、肝臓内に赤痢アメーバを中心としたグラニュローマ様病変が形成され、肝臓内から赤痢アメーバのmRNAを検出した。このとき、肝臓内のIL-5,IL-13mRNA発現は顕著に増加していた。さらにこの結果と一致して、肝臓内のILC2数は感染後有意に増加した。したがって、本年度は赤痢アメーバの重症化症状であるアメーバ性肝膿瘍のマウスモデルにおいても、その病態形成にILC2が関与することが示唆される興味深い結果が得られた。 これらの進捗状況から、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、腸赤痢アメーバの病態形成におけるILC2の機能解明に加え、本年度興味深い結果を得られたアメーバ性肝膿瘍のマウスモデルを用いて、重症化におけるILC2の役割についても解析を進めていく予定である。 赤痢アメーバの腸管感染では、感染局所におけるIL-25,IL-33の発現又は産生を定量PCR,ELISA法を用いて検討し、感染後ILC2の活性化環境が誘導されるのかを確認する。 また、ILC2の分離・回収を行い、感染後ILC2がTh2サイトカインを産生するのか細胞内染色法またはELISA法にて直接的に可視化し解析する。さらに、抗体投与によるILC2中和実験並びにILC2養子移入実験を主体としてILC2が産生するTh2サイトカインが実際に病態形成に及ぼす影響を明らかにする。 アメーバ性肝膿瘍のマウスモデルの解析については、感染後の肝ILC2の機能を明らかにするため、腸管感染と同様、肝臓におけるILC2の動態及びILC2によるTh2サイトカイン産生能を解析する。さらに、感染後のILC2が病態形成に増悪に働くのか、感染防御に関与するのかを明らかにするため、肝臓内のILC2をin vivo 抗体投与により除去し、赤痢アメーバ感染後の病態形成を比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に使用予定の試薬および消耗品の年度内納入が間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究は赤痢アメーバ感染マウスのリンパ球機能解析や感染局所の病態解析のため、細胞分離用試薬、病理用試薬、各種蛍光標識モノクローナル抗体等の経費が必要である。引き続き研究の進捗状況に沿って適宜、これらの試薬・消耗品とILC2の機能解析のために必要なin vivo 投与用抗体の経費として適切に使用する。また、赤痢アメーバの継代・維持には特殊な培地とフラスコが必要となるため、これらの細胞培養用試薬並びに消耗品の費用として使用する予定である。
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