研究課題
深在性フザリウム症の感染経路は空気中に浮遊している胞子を吸入することによる経気道感染であると考えられている。今年度は深在性フザリウム症の原因菌種と室内環境真菌叢との関連性を解明することを目的に、空気中と浴室・台所の排水口から真菌分離培養を実施した。さらに予備的な実験として少数の環境サンプルを用いて次世代シーケンサーによるメタゲノム解析を実施した。真菌分離培養の結果では、我々がブラジルで実施した先行調査の結果に反し、本邦では空気中からFusarium属菌は分離されてこなかった。これに対して浴室・台所の排水口からは高頻度にFusarium属菌が分離されてきた。これらのFusarium属菌をFusarium solani species complex(FSSC)特異的リアルタイムPCRで同定した結果、分離されてきたFusarium属菌のうち約70%がFSSCであった。さらにこれらのFSSCをEF-1α遺伝子の相同性解析により菌種同定した結果、我々がこれまでに深在性フザリウム症の原因菌として重要性を指摘してきたF. petroliphilumが最も高頻度で分離されてくることが明らかとなった。さらに予備的な実験として実施したメタゲノム解析では真菌分離培養法の結果と同様に、空気中からはFusarium属菌はわずかしか検出されなかったのに対し、浴室・台所の排水口からは高い割合で検出された。また、昨年度に引き続き全国の医療機関から深在性フザリウム症患者から分離されたFusarium属菌8株を収集し、EF-1α遺伝子およびITS領域の相同性解析による菌種同定を実施した。その結果、これら8株全てがFSSCに同定された。さらにそのうちの5株がF. petroliphilumであった。
2: おおむね順調に進展している
今年度は深在性フザリウム症の原因菌が浴室・台所の排水口から高頻度に分離されてくることを明らかにすることができた。また、予備的な実験として少数の環境サンプルを用いて次世代シーケンサーによるメタゲノム解析を実施することができた。以上から、今年度はおおむね当初の研究計画を遂行することができたと考えている。
深在性フザリウム症の病原菌として重要なF. petroliphilumが室内環境に定着していることが明らかとなったことから、ヒトとの接触機会の多いF. petroliphilumが深在性フザリウム症の原因菌として患者から多く分離されてくる可能性が示唆された。当初の仮説では、F. petroliphilumは他のFusarium属菌と比較してヒトに対する病原性や感染力が強いのではないかと考えていた。今後、F. petroliphilumによる深在性フザリウム症の発症要因として環境要因と菌の病原性要因のどちらが重要であるかを明らかにするため、マウスを用いた感染実験を実施する予定である。また、今年度に実施したメタゲノム解析の予備的な実験では、真菌分離培養の結果とほぼ一致する良好な結果が得られたため、今後さらにサンプル数を増やして解析を実施する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (2件)
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