研究課題/領域番号 |
16K19123
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
松村 拓大 金沢大学, 医学系, 講師 (00456930)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ボツリヌス / 神経毒素 / 神経毒素複合体 / M細胞 / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
ボツリヌス食中毒の発症には、経口摂取された神経毒素が活性を保持したまま腸管から吸収され、血中へ移行する事が必要である。過去に我々は高い経口毒性を持ち、中毒の発症に大きく寄与していると考えられる血清型A型神経毒素複合体L-PTCがパイエル板を覆う濾胞被覆上皮(follicle-associated epithelium: FAE)に存在するM 細胞から吸収されることを発見した。一方で、A型と同様にヒトに中毒を引き起こすB型においては毒素の吸収機構は不明である。まず我々はB型毒素の吸収機構について解析した。B型においてもL-PTCが経口毒性が非常に高いことが知られている。腸管内局在を解析した結果、A型L-PTCとは異なり、絨毛上皮(VE)やFAEに広く局在していた。吸収上皮細胞ではL-PTCは多くが細胞apical直下に局在していたが、M細胞ではbasolateral側へ輸送されていた。さらにM細胞の分化に必須であるサイトカインRANKLに対する抗体でマウスを処理することにより作成したM細胞欠損マウスでは経口投与されたL-PTCに対する感受性が減弱していた。これらの結果から、B型食中毒発症においてもM細胞は毒素の重要な侵入経路の一つであることが明らかとなった。一方で、腸管上皮直下のsub-epithelial dome(SED)には樹状細胞やマクロファージ、リンパ球等の免疫細胞が存在しており、毒素の血中への移行に影響することが考えられる。A型L-PTCはM細胞を介して腸管上皮細胞バリアを突破した後、一部がCD11c+細胞内へ取り込まれている様子が確認されている。SEDにおけるB型L-PTCとCD11c+細胞の共局在を解析した結果、B型L-PTCも一部がCD11c+細胞内へ取り込まれていた。A型およびB型L-PTC共に血中への移行に免疫細胞が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ヒトに中毒を発症させる血清型であるにもかかわらず未だ体内への侵入機構が解明されていないB型Okra株由来毒素複合体の腸管吸収機構について解析し、M細胞が重要な侵入経路の一つであることを明らかにした。一方で血清型B型毒素複合体は吸収上皮細胞からも取り込まれており、A型とは異なる機構で生体内に侵入していることが示唆された。さらにB型毒素複合体の腸管上皮通過後のSEDにおける局在を解析し、一部が樹状細胞(CD11c+ 細胞)内に取り込まれていることを発見した。この結果から、血清型A型およびB型いずれの毒素複合体においても血中までの移行に免疫細胞が関与している可能性が考えられた。 当初の予定では血清型A型のみを用いて毒素複合体と免疫細胞との相互作用を解析する予定であった。しかし血清型B型Okra株由来神経毒素複合体がA型とは異なる腸管内局在を示すことが明らかになったため、本年度は、B型の腸管上皮細胞バリア通過機構を中心に解析した。いずれもヒトにとって重要な血清型であるため、今後はこの二種類の血清型を用いて、免疫細胞との相互作用を含めた毒素複合体の吸収機構を解析することとした。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトに中毒を引き起こす血清型A型およびB型毒素複合体がSEDにおいて樹状細胞(CD11c+細胞)内へ取り込まれていることが明らかとなった。今後は樹状細胞以外の免疫細胞(マクロファージ、B細胞、T細胞等)との相互作用についても解析していく予定である。また、L-PTCは神経毒素と無毒成分(HAおよびNTNHA)との複合体である。どの分子が免疫細胞との相互作用を担っているのか明らかにする必要がある。今後はin vivoおよびin vitroの系を用いて毒素複合体と免疫細胞との詳細な相互作用について解析し、中毒発症における免疫細胞の役割について明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、血清型B型毒素複合体の腸管吸収機構を中心に解析したため、免疫細胞との相互作用の詳細な解析が次年度に持ち越しとなった。本解析の一部はin vitroで行う予定である。その解析で用いる予定の細胞株、抗体、キット等を次年度に購入する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はin vitroで毒素複合体と免疫細胞(細胞株)との相互作用を詳細に解析する予定である。また、実際の中毒発症における免疫細胞の役割について、種々の免疫細胞を持たないマウスを用いて解析する予定である。
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