研究課題/領域番号 |
16K19126
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
顔 宏哲 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50612066)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 病原性大腸菌 / エフェクター / 細胞外小膜 / 感染症 / エクソソーム |
研究実績の概要 |
H29年度の計画目標は、エクソソーム分泌促進を促すエフェクターの細胞内作用点を明らかにする。実績として、A. コントロールと比べて、検証対象のエフェクター発現哺乳類細胞はより多くのエクソソームを分泌することが確認できた。B.検証対象のエフェクターは後期エンドソームの分子と共同局在することが明らかとなった。 具体的に、 A. まずエクソソーム分泌を促すエフェクターの機能の確定を行なった。欠損株とその相補株を作成し、感染した貪食細胞 THP-1 より放出されたエクソソームを PEG 沈殿法で濃縮した。量的の変動をWB とAcetylcholinesterase 酵素活性で評価した。その結果、野生株と比べ欠損株の感染細胞からのエクソソーム分泌量の低下が認められた。しかし、相補株では分泌量の回復が確認できなかった。過去の論研より、検証対象のエフェクターの過剰発現は病原性大腸菌のエフェクター分泌を阻害する報告がされている。この事から、相補株に使用していたプラズミドから過剰なエフェクタータンパク質が産生したのが原因と考えられる。別のアプローチとして、対象エフェクターが単独発現している細胞株を樹立し、コントロール細胞と比較しエクソソーム分泌量の増大か否かを上記評価方法で検討した。その結果、エフェクター発現細胞はより多くのエクソソームマーカーの放出が WB で確認できた。この事から、検証対象のエフェクターはエクソソームの分泌に正の影響することが確認できた。
B.エフェクターの作用点について、エフェクター発現細胞を利用してエクソソーム形成経路のマーカーと免疫染色を行った。その結果、エフェクターの一部がLAMP-1とCD63 と共局在している像が認められた。この事から、エフェクターは直接または間接的にLAMP-1またはCD63に作用してエクソソームの分泌を影響していることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度はエクソソームの分泌を正に制御するエフェクターについて、宿主細胞内の作用点と相互作用する宿主因子の解明を計画していた。
当初の計画では相補株の感染細胞で機能の検証を行う予定であったが、相補株では対象のエフェクターの発現量によって三型分泌装置の機能を影響することが判明した。相補株は主にエフェクター発現プラズミドを利用して作成する事から、野生株と同等量のタンパク発現を得るには極めて困難と考えられる。代替の手法として、対象のエフェクターを発現する細胞株を樹立した。これによって、エクソソームへの形成や分泌の変動は単一のエフェクターによるものと言えるようになる。この実験系で実験を行なった結果、コントロール細胞と比べてエフェクター発現細胞の方がより多くのエクソソームが分泌されていることが明らかとなった。さらに、免疫染色でエフェクターの細胞内局在も検討することができた。その結果、上記のセクションで記載されているように、後期エンドソームマーカーでエクソソーム形成に関連する分子、CD63 や LAMP-1 と共局在することがわかった。このことから、エフェクターはこれらの分子またはどう局在にある関連因子と直接または間接的に相互作用している可能性を示唆している。
これらの成果より、エフェクター発現細胞株はエクソソーム制御の分子メカニズムを検討する上で有効な実験手法であることを示している。したがって、引き続きこの細胞株を利用し、エフェクターはCD63やLAMP-1との結合確認、または、未知のエクソソーム形成関連分子の相互同定を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を踏まえて、H30年度はエフェクターによるエクソソーム制御の分子メカニズムを明らかにすることを計画している。具体的には、
1.検討対象のエフェクターと後期エンドソームのタンパク質の相互作用を明らかにする。エフェクター強制発現細胞の免疫染色より、エフェクターは後期エンドソームのマーカーと共局在することが明らかとなった。このことから、エフェクターは後期エンドソームのタンパク質と結合している可能性を示唆している。この可能性を検討するために、エフェクター強制発現細胞株を用いて、後期エンドソームタンパク質を免疫沈降し、エフェクタータンパク質が共沈降するかで明らかにする。さらに、エフェクターに対しても免疫沈降を行い、後期エンドソームの因子の抗体で共沈降しているかでその相互作用を確認する。免疫染色実験ではCD63 や LAMP-1 との共局在が認められるが、免疫共沈降実験で相互作用する証拠が得られない場合を想定し、エフェクターを免疫沈降後、コントロールと比べて特異的に結合する未知なタンパク質をマス解析を行う。候補の因子の中で、GO 解析で細胞内輸送へ関与する分子をピックアップし、免疫共沈降と免疫染色でエフェクターとの相互作用を確認する。これによって、エフェクターの標的因子を確定する。
2.エクソソーム分泌促進に重要なエフェクターアミノ酸配列を明らかにする。上記1で得た相互分子の見地より、その相互作用がエクソソーム分泌促進に重要であることが考えられる。実際の相互作用部位を明らかにするために、段階的にアミノ酸配列が欠失したエフェクターの発現細胞株を樹立し、エクソソーム分泌量の変化、相互分子との免疫共沈降と細胞内の共局在に影響するかを評価し、表現系に大事なエフェクターのアミノ酸部位を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では相補株で実験を行う予定であったが、予期できなかったエフェクターの性質により相補株で計画を遂行することが困難になった。これを受けて、新しく実験系(エフェクターを発現する哺乳類細胞株)を立ち上げることになり、予算の遂行タイミングと配分に影響が生じた。しかし、H29年度の研究よりこの細胞株で研究成果が得ていることから、H30年度は引き続き利用してエフェクターの機能解析を行う。翌年度分に繰り越した助成金は、計画したエフェクターの分子メカニズムの解明に利用する。
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