エクソソームは細胞より放出される直径50-120 nmのリン脂質二重層粒子である。この粒子は多種類の活性因子を内包し、細胞間の情報伝達の役割を果たしていることが知られている。本研究課題の目的は、宿主細胞のエクソソーム経路が腸管病原性大腸菌 (EPEC)および腸管出血性大腸菌 (EHEC) 感染により受ける影響とその仕組みを解明することにある。3型分泌装置(T3SS)はEPEC/EHECの感染成立に必須のものであることから、まず野生株(WT)とT3SS欠損株を比較した。その結果、WTはより多くのエクソソーム放出を促すことを見出した。これはT3SSまたはT3SS依存的に細胞質に注入されたeffector タンパク質がエクソソーム放出に影響を及ぼすことを示唆している。放出を制御しうる effector タンパク質を見出すために、まずeffector の一つであるNleA について検討を行なった。 NleA欠失菌株を感染させた細胞と比較し、相補株を感染させた細胞ではCD63陽性エクソソームの放出が抑制されていた。これはNleA がエクソソーム機構に直接または間接的に影響していることを示す。次に、細胞内の NleA の作用点を検討した。エクソソームは細胞内の多胞性エンドソーム(MVB)内で形成され、細胞膜の融合で放出されるか、lysosomeと融合して分解されるか、二つの運命をたどる。 NleA欠損株および相補株を用いて感染実験を行い、感染細胞中のMVBについて、MVBのマーカーの一つ であるCD63を免疫蛍光染色し、CD63陽性MVBの数や面積、蛍光強度を測定した。その結果、NleA が存在することで、CD63陽性MVBの蛍光強度が低下する傾向を示した。このことから、MVB内への CD63の取り込みに NleAが影響しているか、もしくはNleAがlysosome による分解を促進していることが考えられる。
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