研究課題/領域番号 |
16K19129
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
林 直樹 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (70707463)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 緑膿菌 / 上皮細胞 / ムチン層 / 鞭毛運動 / 化学走化性 / 感知 / GRO-α |
研究実績の概要 |
臨床上重要なグラム陰性の日和見感染症起因菌であるPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)は、ムチンで覆われた上皮細胞層からなる粘膜上皮を越え(トランスロケーション)、重篤な血液感染症を引き起こすことがある。我々は、緑膿菌トランスロケーションの過程を、1)上皮細胞の感知、2)上皮細胞への接近、3)上皮細胞への付着、4)上皮細胞層透過経路の形成、5)上皮細胞間隙の透過に分け、研究を進めてきた。本研究では、緑膿菌の腸管腔からのトランスロケーション機構を解明することで、宿主環境に応じた細菌の感染メカニズムに基づく新たな予防および治療法考案のためのターゲットバリデーションを行なう。具体的には、緑膿菌トランスロケーションにおける「腸管上皮細胞の感知」にターゲットを絞り、(1)緑膿菌が感知する腸管上皮細胞培養上清成分の同定、(2)緑膿菌が腸管上皮細胞を感知する機構の解明、(3)腸管上皮細胞が緑膿菌のムチン層透過を亢進する機構の解明を目指す。 平成28年度までに申請者は、ヒト結腸癌由来Caco-2細胞培養上清成分に含まれる10 kDa以下のタンパク質が、緑膿菌によるムチン層透過を亢進することを見出していた。平成29年度は、この結果をもとに緑膿菌が感知する10 kDa以下のタンパク質の同定を目指して、解析を進めた。その結果、(1)緑膿菌が感知するCaco-2細胞由来の10 kDa以下のタンパク質が少なくとも2種類以上あること、(2)緑膿菌は、Caco-2細胞の分泌するケモカインの一つであるGrowth-related Oncogene alpha(GRO-α)を感知することで鞭毛運動を促進させ、ムチン層を透過することを見出した。平成30年度は、これまでに申請者が構築した実験手法ならびに知見を基盤に、緑膿菌によるムチン層透過を抑制する化合物を探索する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度までに申請者は、ヒト結腸癌由来Caco-2細胞培養上清成分に含まれる10 kDa以下のタンパク質が、緑膿菌によるムチン層透過を亢進することを見出した。平成29年度は、平成28年度までの成果をベースに、緑膿菌が感知する10 kDa以下のタンパク質の同定を目指して解析を進め、Caco-2細胞が分泌するケモカインの一つであるGrowth-related Oncogene alpha(GRO-α)が緑膿菌によるムチン層透過を亢進することを明らかにした。 平成29年度に得られた研究成果を列挙すると、(1)緑膿菌鞭毛FliC抗体を用いたテザードセルアッセイにより、Caco-2細胞培養上清は緑膿菌の鞭毛フィラメント回転運動を亢進することを見出した。(2)蛍光タンパク質を発現する緑膿菌を用いたキャピラリーアッセイにより、緑膿菌はCaco-2細胞培養上清に走化性を示すことを見出した。(3)トランスウェルにウシ顎下腺由来ムチンを充填した人工的ムチン層を用いた緑膿菌によるムチン層透過アッセイにより、Caco-2細胞の分泌するGRO-αが緑膿菌によるムチン層透過を亢進することを見出した。また、GRO-αは緑膿菌の鞭毛フィラメント回転運動を亢進したが、緑膿菌はGRO-αに対して化学走化性を示さなかったことから、緑膿菌が感知するCaco-2細胞由来の10 kDa以下のタンパク質がGRO-α以外にも少なくとも一つ以上存在することが示唆された。 以上の結果より、本研究では平成29年度の研究目標に掲げていた緑膿菌が感知する腸管上皮細胞成分の少なくも一つがGRO-αであることを同定でき、平成29年度の目標をおおむね達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、緑膿菌が感知する腸管上皮細胞由来10 kDa以下のタンパク質の同定を目指し、平成29年度までの研究によって、緑膿菌がケモカインの一つであるGRO-αを感知することで鞭毛運動を促進させ、ムチン層を透過することを見出すことができた。 平成30年度は、申請時の計画にあるように、本研究で得られたインビトロ実験の成果をヒト培養細胞やマウスを用いたインビボ感染実験で評価する計画である。具体的には、トランスウェルを用いたCaco-2細胞モノレイヤー透過モデルや、カイコや好中球減少マウスを用いたトランスロケーション感染モデルを用いた感染実験を計画している。また、緑膿菌を含む多くの細菌で明らかとなっている鞭毛回転や化学走化性を制御に関わる感知センサーを対象に、Caco-2細胞分泌タンパク質を感知する緑膿菌のセンサーを同定する。これら申請時の計画に加え、平成30年度は、これまでに申請者が構築した実験手法ならびに知見を基盤に、緑膿菌によるムチン層透過を抑制する化合物を探索する計画である。また、最終年度までに本研究で得られる結果を統合的に解析することで、緑膿菌の腸管腔からのトランスロケーション機構を解明し、宿主環境に応じた細菌の感染メカニズムに基づく新たな予防および治療法考案のためのターゲットバリデーションの提案につなげる計画である。
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