研究課題/領域番号 |
16K19135
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古瀬 祐気 東北大学, 医学系研究科, 助教 (50740940)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ウイルス / 感染症 / 病原性 / 遺伝子 |
研究実績の概要 |
Respiratory syncytial virus (RSV) は、急性気管支炎を引き起こす主要な病原体の1つである。2012年以降、従来とは異なる遺伝子配列をもつ型 (ON1) が世界中で報告されており、従来型(NA1) と比較し感染が拡大した要因を明らかにすることで、RSV感染症の病態を理解することを目指している。 世界中から報告されているON1およびNA1遺伝子型RSVのゲノム情報を収集し、さらに東北大学で収集されているRSVの全ゲノム解析と組み合わせて解析を行った結果、ウイルスのG遺伝子・F遺伝子・L遺伝子においてON1/NA1型間に違いのある共通の変異が同定された。とくにG遺伝子における変異は72塩基の挿入という大きなものであった。 ヒトの気道上皮に由来する培養細胞に、ON1およびNA1遺伝子型のRSVをそれぞれ感染させたところ、TCID50法による感染粒子数にもとづく増殖能解析では、ON1/NA1型間に明らかな違いは見られなかった。一方で、細胞間伝播による増殖を反映すると考えられるプラーク法による解析では、ON1型の形成するプラークがNA1型より小さかった。 さらに、遺伝子型間で違いのある遺伝子に着目し、同定された変異がそれらの各遺伝子の機能に影響を及ぼしているのか検討するために、現在L遺伝子の機能を解析するためのレポーターミニゲノムアッセイ、F遺伝子の機能の解析するための細胞融合アッセイ、G遺伝子の機能を解析するためのウイルス様粒子吸着アッセイの構築を試みている。 また、本研究の派生として「新しい遺伝子型のウイルスが出現した際に、従来の遺伝子型がいなくなるメカニズム」の理論的な解明を試みたところ、“比較的小さくも安定したウイルスの伝播状態”が重要な因子であることがシミュレーション研究によってわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究によって、RSVの新しい遺伝子型であるON1型が、従来のNA1遺伝子型に比べて複数の遺伝子変異を共通してもっていることがわかった。増殖能に関する検討も概ね終了している。現在は、1つ1つの遺伝子の働きを調べていくための実験形を構築中であるが、広く用いられている実験用の(現在ヒトの間で流行しているものとは異なる)RSVを用いた系は確立されたものの、現在の流行株であるON1/NA1型のRSVではこれらの系が一部で正しく働かなかったため、現在、これに対処すべく原因を究明中である。このため、予定していた宿主因子解析のための実験を当該年度内に開始することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果として、細胞間伝播の効率における違いが示唆されたことから、ウイルスが細胞に吸着する過程・あるいは入り込む過程においてON1型RSVは効率化を図っているのかもしれない。しかしながら、培養細胞によるウイルスの増殖過程に大きな差はなく、増殖そのものよりもウイルスが細胞に吸着し入り込むまでの過程のどこかに有利に働く変異があることが示唆された。今後は、その具体的なメカニズムを明らかにする研究を行っていく予定である。 これを証明するためには、各遺伝子の機能にフォーカスした独自の実験系を構築中であり、今後もこの開発を継続していく予定である。さらに、ウイルス側だけでなく感染細胞における応答にもウイルスの遺伝子型間で差があるのか検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度での実験を予定していたいくつかの生化学的実験と次世代シーケンサーによる宿主因子の解析を行わなかったため、その消耗品代や技術費、解析ソフトのための費用が生じなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度に行うことのできなかった実験を次年度に持ち越し行い、そのための経費を支出する。
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