研究課題/領域番号 |
16K19138
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金井 祐太 大阪大学, 微生物病研究所, 特任講師(常勤) (80506501)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | レオウイルス / 癌治療 / 腫瘍溶解ウイルス |
研究実績の概要 |
哺乳類オルソレオウイルス(以下MRV)は様々な癌に対して優れた殺腫瘍活性を示すことから、腫瘍溶解性ウイルスとして、癌治療への医薬品応用が有望視されている。本研究は、MRVの遺伝子改変技術を利用することで、より治療効果の高い腫瘍溶解性ウイルスベクターの開発研究を目的とする。 我々はこれまでにMRV外層タンパクであるSigma1にインテグリン結合能を有するRGD配列を挿入した組換えMRVを作製し、一部の癌細胞において顕著な感染性の向上を認めていた。今年度はこのRGD-MRVを用いてさらに効果の認められる癌細胞を探索するため、60種類のヒト癌細胞について詳細に検討したところ、6種類のがん細胞に於いてRGDを付加することによる腫瘍溶解能の向上が認められた。さらにこれらのがん細胞を用いてRGD配列の挿入箇所の検討を行ったところ、sigma1の表面に位置する4か所のループ構造のうち2か所がRGDの挿入箇所として適切であることが明らかとなった。その他のループ構造へのRGD配列の挿入は、効果が弱いか、本来のsigma1が持つ細胞受容体への結合能を阻害することが明らかとなった。また、より強い腫瘍溶解能を得る目的で、複数のループ構造へのRGD配列の挿入を試みたが、いずれの組み合わせに於いてもRGDの挿入効果は認められず、組合せによっては本来の感染性を阻害することが明らかとなった。 このRGD-MRVを用いたin vivoでの腫瘍溶解能を検討するため、in vitroでRGD-MRVに感受性を示したヒト癌細胞のヌードマウスへの定着能を検討したところ、定着能の高い癌細胞を見出した。現在マウスへの移植を行っており、今後in vivoでの実験を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画として1)RGD挿入箇所の検討、2)RGD-MRVのin vivoにおける抗腫瘍効果の検討、3)Sigma1タンパクにランダムペプチドライブラリーを挿入した組換えMRVの作製、4)抗腫瘍因子を搭載したMRVの作製を予定していた。 (1)についてはRGDの挿入可能箇所としてsigma1タンパクの表面にある4か所のループ構造へRGDを挿入した組換えMRVを作製し、RGDペプチドの最適な挿入箇所の選定を行った。さらに複数個所へのRGD配列の挿入も試み、RGD効果の増強作用についての検討を行った結果、特定のループ構造への単数のRGD配列の挿入が最も高い抗腫瘍活性が得られることが明らかとなった。2)については、RGD-MRVに高い感受性を示したヒト癌細胞株を用いてヌードマウスへの定着能を検討し、グリオーマ由来癌細胞株がin vivoでの実験に適していることが明らかとなった。現在マウスへの移植を進めており、定着後、RGD-MRVで処置し、in vivoでの抗腫瘍活性を測定する。3)については、ウイルス作製のためのランダムペプチドを挿入したsigma1遺伝子ライブラリーを作製した。得られたライブラリーの配列を確認したところ、該当箇所にいずれも異なるランダムな塩基配列が挿入されていた。現在このライブラリーを用いたウイルス作製を行っており、MRV抵抗性のがん細胞で感染継代することで、癌細胞特異的に感染する組換えMRVを得る予定である。4)抗腫瘍因子として知られているマウスCSF2を発現するMRVの作製を行った。得られたウイルスMRV-CSF2は外来遺伝子としてL1遺伝子の上流に挿入したマウス由来CSF2遺伝を保持していたが、ウイルス感染細胞においてCSF2活性が認められなかった。現在挿入法の再検討を行っており、CSF2を十分に発現する組換えMRVの作製を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は腫瘍溶解能が向上したRGD-MRVの作製に成功した。これまでin vitroでは野生型MRVに抵抗性のがん細胞に対し非常に効果的に抗腫瘍活性を示していることから、次年度はヌードマウスへ癌細胞を移植した担癌マウスを用いたin vivoでの抗腫瘍効果についての検討を行う。またRGDがインテグリンに対し親和性を示すため、RGDを付加することによる非特異的な感染が懸念されることから、RGD-MRVのマウスに対する病原性の検討も同時に行う。またRGDの挿入箇所として顕著な効果を示したsigma1のループ構造にランダムなペプチドライブラリーを挿入したMRVライブラリーを作製し、野生型MRVに抵抗性の癌細胞で感染継代することで、抵抗性癌細胞特異的に感染性を示す組換えMRVの作製を行う。RGD感受性細胞を探索する過程で、多数のMRV抵抗性癌細胞を同定しており、複数の癌細胞種を使用することでそれぞれに特異的な親和性を示すペプチド配列が同定されると予想される。癌免疫の増強因子と知られるマウスCSF2(ヒトGM-CSFと同等)を挿入したMRV-CSF2を作製したものの、CSF2の発現が確認できなかった。同様の方法により外来遺伝子として挿入したNLucルシフェラーゼは高い発現が確認できていることから、何らかの理由(ウイルス遺伝子とCSF2の塩基配列の相互作用等)により外来遺伝子の発現が抑制されていることが予想された。今後外来遺伝子の前後にウイルス遺伝子をより多く配置するなどして、発現量の最適化を検討する予定である。同時にIL-12などその他の癌免疫増強因子についても挿入を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、すでに得られていたレポーターRGDウイルスをもとに改良型のRGD-MRV作製を行った。すでに組換えウイルス作製法と癌細胞のスクリーニング法が確立されていたため、予定より予算の消化が少なくなった。またマウスでの実験では癌細胞の定着試験のみを行い、ウイルスを用いた本試験を行わなかったため、こちらも予定していた予算を次年度に繰り越すことになった。またランダムペプチド挿入MRVライブラリーの作製はプラスミドの作製のみのとどまり、CSF2発現MRVについてもウイルス作製を行ったものの外来遺伝子の発現が認められなかったため、その後予定していた実験を行わなかった。その為当初の予定より予算の消化が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、引き続き抗腫瘍活性を増強した組換えレオウイルスの作製を進め、同時にこれまでに得られた組換えウイルスのin vivoにおける抗腫瘍効果について検討を行う。そのため組換えウイルス作製と、in vitroおよび実験動物を用いたin vivo実験関係を主な予算の使用目的とする。またRGD付加により感染性が向上したRGD-MRVについては、ウイルス受容体とインテグリンについての検討を行うため、生化学実験関係の予算を計上している。動物実験により得られた結果の解析を行うため、分子生物学、生化学関係の予算を計上する。また得られた成果についての学会発表も予定しているため、旅費を計上する。
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