研究実績の概要 |
センダイウイルス (SeV) Cタンパク質は, ウイルス高病原性の発現に関与しており, 宿主因子STAT1と結合し, インターフェロンのシグナル伝達を阻害する。また, Cタンパク質はESCRT関連因子のひとつであるAlixと結合することで, 子孫ウイルスの出芽を促進させる。Cタンパク質のN末ドメイン (Y3と命名) は, STAT1のN末ドメイン (STAT1ND) およびAlixのBro1ドメインとそれぞれ結合する。当研究室ではこれまでに, Y3:STAT1ND複合体およびY3:Bro1ドメイン複合体の立体構造をX線結晶構造解析より明らかにした。他方, Cタンパク質とこれら標的因子 (STAT1およびAlix) 間の結合を阻害する化合物はSeV阻害剤になる可能性を秘めている。本研究では, Cタンパク質と標的因子間の結合を阻害する化合物の探索を試みた。一次スクリーニングでは, FRETを利用したアッセイ法を用いた。具体的に述べると, Y3およびSTAT1NDもしくはBro1ドメインのそれぞれのペプチド末端に黄色蛍光タンパク質およびシアン色蛍光タンパク質を融合させた。Y3とSTAT1NDもしくはBro1ドメインが結合すると, それぞれの蛍光タンパク質が互いに接近しFRETが発生する。結合を阻害する化合物存在下では, FRETは発生しない。東京大学創薬機構が保有する約20万種の低分子化合物を用いたところ, Y3とSTAT1ND間の相互作用を阻害するフラーレン誘導体を見出した。またビアコア解析より, このフラーレン誘導体はCタンパク質に結合することが明らかになった。他方, 一次スクリーニングの結果, いくつかの脂肪酸誘導体がY3とBro1ドメイン間の結合を特異的に阻害した。
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今後の研究の推進方策 |
見出した阻害剤は, プルダウンアッセイより, Y3と標的因子間の結合を特異的に阻害するかどうかを解析する。ビアコア解析を実施し, 阻害剤がY3と標的因子のどちらと結合するのかを解析し, 結合定数を算出する。X線結晶構造解析を実施し, Y3と阻害剤の間の結合様式を明らかにする。東京大学創薬機構と協力し, 阻害剤の構造最適化を試みる。他方, SeVは, ヒトの風邪の原因であるヒトパラインフルエンザウイルス1型 (hPIV1) の近縁であり, モデルウイルスとして研究される。hPIV1 Y3は, SeV Y3と70%のアミノ酸同一性をもつ。SeV Y3の阻害剤複合体構造を基にし, ホモロジーモデリングにより, hPIV1 Y3と阻害剤の複合体モデルを構築する。これを基に阻害剤の構造最適化を試みる。最終的に得られた阻害剤は, 培養細胞を用いて, SeVもしくはhPIV1を感染させ, ウイルスの増殖を阻害するかどうかを解析する。
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