研究実績の概要 |
センダイウイルス (SeV) はマウスに感染し呼吸器疾患を引き起こすが, ヒトへの感染例は報告されておらず, ヒトの風邪の原因であるヒトパラインフルエンザウイルスI型 (hPIV1) と多くの性質が共通することから, hPIV1のモデルとして研究されてきた。SeVやhPIV1では, アクセサリー分子であるCタンパク質が病原性の発現に重要であり, 宿主転写因子STAT1と結合することで, インターフェロン (IFN)-α/βおよびIFN-γのシグナル伝達を阻害し, 自然免疫の回避に関与する。他方, Cタンパク質はESCRT関連因子Alixと結合し, これを原形質膜にリクルートすることでウイルス粒子の出芽を促進させる。Cタンパク質を欠失させると, SeVやhPIV1では増殖能が著しく阻害される。このため, Cタンパク質とこれら標的因子 (STAT1およびAlix) 間の結合を阻害する化合物は, SeVやhPIV1の阻害剤になりえると考えられる。本研究ではCタンパク質を標的とした阻害剤の開発を目的とした。Cタンパク質のC末 (Y3と命名) はSTAT1のN末ドメイン (STAT1ND) およびAlixのBro1ドメインとそれぞれ結合する。Cタンパク質とBro1ドメイン間の結合様式は不明である。X線結晶構造解析を実施したところ, Y3は, 分子表面上の異なる領域を用いてSTAT1NDおよびBro1ドメインとそれぞれ結合することが明らかになった。次に, 約20万種の低分子化合物を用いて, 阻害剤探索の一次スクリーニングを実施した。その結果, Y3とSTAT1もしくはAlix間の結合を特異的に阻害する約100種の化合物を見出した。これら化合物の阻害活性は低く, 結合定数の算出には至っていない。今後はX線結晶構造解析より, 標的タンパク質と化合物の複合体構造を明らかにしていく予定である。
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