研究課題
これまでにB型肝炎ウイルス(HBV)感染許容性/非許容性細胞を用いてトランスクリプトーム解析し、HBV感染許容性HepG2-hNTCP-C4細胞で発現の高い23因子を同定した。siRNAを用いたHBV感染実験から、これらのうち4因子がHBV感染感受性を低下させることを見出している。今回はこれらのうち2因について、1) HBV生活環のどのステップを阻害するのか、2)HBV感染受容体NTCPの局在や発現量に影響を与えるかに関して主に解析した。1)HBV生活環の吸着過程を評価するため、HBVエンベロープタンパク質の一部を蛍光標識したペプチドを用いて検討した。また、侵入以降から核輸送過程について、D型肝炎ウイルス(HDV)を用いて検討した。1つの因子についてsiRNAを用いての内在性発現を低下することでHBVの吸着、HDV感染の低下が観察されたことから、この因子はHBV生活環の吸着過程に関与することが示唆された。もう一方の因子の内在性発現を低下することでHDV感染は低下するがHBVの吸着低下は観察されなかったことから、この因子はHBV生活環の侵入以降から核輸送過程に関与することが示唆された。2)前者の因子の内在性発現を低下することで細胞膜に局在するNTCP、NTCPタンパク質発現量の低下が観察された。NTCP mRNA量には影響しないことが示唆されたため、この因子はNTCPタンパク質分解制御に関与することが示唆された。また、後者の因子の内在性発現を低下することでNTCPタンパク質発現量、NTCP mRNA量の低下は観察されなかったが、細胞膜に局在するNTCPの増加、およびウェスタンブロットにおけるNTCPの移動度の変化が観察されたことから、この因子はNTCP局在および翻訳後修飾に関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今回の結果よりHBV感染許容性を規定する4因子を同定した。これまでHBVの感染許容性を規定する宿主因子およびHBVのNTCP吸着後のイベントを制御するメカニズムに関しては多くが明らかになっていない。またNTCPの局在・翻訳後修飾を制御する因子やメカニズムについてもほとんど明らかになっていないが、今回の結果より2因子がNTCPの局在・翻訳後修飾、タンパク質分解制御に関与する因子であることが示唆された。これらのメカニズムを解明するために有用な知見である。本研究結果に関する論文作成に必要な結果は近々全て得られると期待できる。また、HBVの侵入から核輸送過程を標的としHBV感染を阻害するcilnidipineは、HBVの膜と細胞の膜成分との融合には影響しないという結果を得ており、侵入過程を標的とする新しいメカニズムを有するHBV侵入阻害剤であることが示唆された。本研究結果に関する論文作成に必要な結果も近々全て得られると期待できる。従って本研究は当初の予定通りに進行している。
今年度の研究結果より、2つの因子が制御するHBV生活環のステップ、およびNTCP局在・翻訳後修飾に関与すること示されが、NTCP局在・翻訳後修飾のメカニズムについてはまだ詳細な解析が必要である。次年度は、同定した2因子によるNTCPの局在・翻訳後修飾制御が、直接NTCPに結合することにより制御するのか、NTCPに特異的であるかあるいはその他のトランスポータータンパク質の制御にも関わるのかを含め、詳細な制御メカニズム解析する。これに加え、HBV感染許容性を規定すると示唆される他の2因子に関しても、同様に制御メカニズムを解析する。また、これらの因子がマウス肝細胞のHBV感染許容性に寄与するかも解析する。さらに、cilnidipineがHBV侵入過程を標的とするメカニズムをHBVエンベロープタンパク質の一部を蛍光標識したペプチドを用いた観察およびウイルス学的解析を用いて解析するとともに、cilnidipineの標的分子の同定を進める予定である。
ファージディスプレイ法を用いてcilnidipineの標的を探索するよて一だったが、先にウイルス学的解析を進め、次年度に必要な試薬を購入することにしたため。また、予定していた国際学会の参加に使用しなかったため。
今年度に使用しなかった研究費は、次年度に予定を変更した研究および次年度計画の研究に使用する。
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