本研究は感染標的である上皮組織におけるパラミクソウイルスの増殖機構を明らかにすることを目的に実施した。昨年度までに宿主のシャペロンタンパク質であるHeat shock protein 90 (Hsp90)がパラミクソウイルスのポリメラーゼ複合体形成に重要な役割を持つことを示してきた。 今年度は主にムンプスウイルス(MuV)を用いて、Hsp90によるポリメラーゼの機能制御に対する詳細な解析を行った。まず、MuVのポリメラーゼ複合体を構成するLタンパク質と相互作用する宿主因子を質量分析法によって網羅的に探索した。その結果、Hsp90のコシャペロン(Hsp90の補助因子)であるR2TP complexを構成するRuvBL1、RPAP3およびPIH1D1がMuVのLタンパク質と相互作用することが示された。R2TP complexの構成因子をsiRNAを用いてノックダウンした細胞では、MuVのmRNA産生が更新する一方で、ゲノムRNAの合成は低下した。さらに、この転写/複製バランスの乱れによって、感染細胞における自然免疫の誘導が亢進し、ウイルス産生が低下することも明らかになった。ポリメラーゼタンパク質とHsp90およびR2TP complexとの相互作用は他のパラミクソウイルスである麻疹ウイルスについても観察され、これら宿主因子の役割がパラミクソウイルス間で保存されていることが示唆された。以上の結果より、Hsp90およびR2TP Complexのシャペロンシステムはパラミクソウイルスのポリメラーゼ複合体の形成およびその機能を厳密に制御することで、ウイルス増殖を促進すると考えられた。Hsp90/R2TP complexの上皮細胞との関係については今後の検討課題である。
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