研究実績の概要 |
蛋白抗原(ペプチド)を結合し、T細胞へと提示する古典的なMHCクラス1分子とは対照的に、N末端ミリスチン酸(炭素数14の飽和脂肪酸)修飾を受けたペプチド抗原、すなわち「リポペプチド」の抗原提示を担う新しいタイプのMHCクラス1分子群(LP1分子)が存在する(Morita et al. Nature Communications 7:10356, 2016)。ウイルスタンパク質へのミリスチン酸修飾はそのウイルスの病原性に深く関わることから、リポペプチドに対するキラーT細胞応答はウイルスに対する防御応答に重要な役割を果たす可能性が高い。
我々はサルエイズモデルの解析から、複数のサルLP1分子を同定し、既にその構造解析を完了している。この構造情報を活用して、平成29年度は「リポペプチドを提示する、新しいヒトMHCクラス1分子群の同定」に向けて、サルLP1分子群の変異体解析を実施した。2種類のサルLP1分子をモデルとして、抗原結合溝を構成するアミノ酸群に網羅的に変異を導入し、1) 定常状態における細胞表面での発現量の変動を観察した。そして、2) 大腸菌リコンビナント蛋白質を用いたリポペプチド結合試験(無細胞系)を実施した。その結果、抗原結合溝のBポケット内にリポペプチド結合に極めて重要なアミノ酸の同定に成功した。この部位にサルLP1分子と同等のアミノ酸を有するヒトMHCクラス1分子をEuropean Bioinformatics Instituteのデータベースより探索し、8種類のヒトLP1分子の最有力候補群を選び出した。次いで、ペプチド長の異なる種々のモデルリポペプチドを合成し、結合評価系の構築を完了した。
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