本研究では、自然免疫系におけるIRF5選択的な制御メカニズムを明らかにし、SLEの治療法に繋がる新規の分子標的を同定することを目的とする。平成29年度までの研究により、IRF5の活性化経路に対し選択的に働く阻害剤としてMAPキナーゼ (MAPK) 阻害剤とMAPK経路下流で働くキナーゼ (MAPK-APK) の阻害剤を見出し、これらの阻害剤の作用機序解析ならびにin vivoにおける薬効評価を進めた。平成30年度では、IRF5選択的制御に関わる分子の作用メカニズムの詳細を解析し、またSLEモデルマウスを用いて治療標的としての有効性を検討した。 IRF5選択的制御メカニズムの解析では、IRF5複合体の単離は実験系の作製が困難であったため、次世代シーケンサーを用いた網羅的解析によりIRF5のゲノムDNA上での複合体解析を行った。形質細胞様樹状細胞 (pDC) 株を用いてChIP-seqならびにRNA-seq解析を行った結果、自然免疫刺激依存的に生じるIRF5のゲノムDNA結合ピークのうちおよそ半数はMAPK阻害剤により抑制され、その多くで近傍の遺伝子発現も減弱した。モチーフ解析の結果、これらのピークからIRFやMAPK下流で活性化されるAP-1などの転写因子の結合モチーフが抽出された。したがって、MAPK経路によって活性化される転写因子とIRF5がゲノムDNA上で共役しており、MAPK阻害剤はこれを抑制することでIRF5に対し選択的に働くことが示唆された。SLEモデルマウスの解析では、SLE病態を発症させた後でIRF5を欠損させる実験を行い、IRF5の抑制が実際にSLE治療にも有効であることを示唆する結果を得た。 今後はMAPK下流で活性化されるAP-1以外の転写因子について、IRF5と共役するメカニズムを解析し、IRF5の関連する疾患の分子標的となり得るかを検討したい。
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