研究課題/領域番号 |
16K19163
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
石原 沙耶花 北里大学, 理学部, 助手 (50741865)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 免疫動態 / 接着カスケード / Rap1 / 大腸炎 |
研究実績の概要 |
低分子量Gタンパク質Rap1をT細胞特異的に欠損したマウスでは、リンパ球ホメオスタシスの破綻により、リンパ球増殖性疾患を引き起こし、生後数週間以内に激しい大腸炎を発症することがわかっている。Rap1のT細胞のホメオスタシスにおける役割を解明し、大腸炎・がんの発症を防いでいる仕組みを明らかにすることを目的として研究を進めている。 Rap1欠損T細胞はtether様の突起が顕著に増加することでローリングが亢進することを見出している。本年度はRap1-GDPによるローリング抑制のメカニズムとその分子機構について検討した。Rap1欠損によってtetherの形成に重要な役割を果たすと考えられるERMのリン酸化レベルが低下したことから、リン酸化酵素であるLOKの活性にRap1が関与する可能性を検討した。その結果、Rap1欠損T細胞ではケモカイン非存在下でLOKのキナーゼ活性が低下しており、Spa-1発現細胞では、ケモカイン刺激後もほとんどリン酸化レベルは低下しなかったことから、Rap1-GDPはLOKの活性化を介してERMのリン酸化に重要な役割を果たしていることがわかった。次にERM及びLOKがローリング及び大腸炎発症に関与する可能性を検討した。ERMの擬似リン酸化変異体(T567E)、LOKの優性活性型変異体を作製し、Rap1欠損T細胞へ導入し、ローリング及び大腸へのホーミング活性を測定したところ、コントロール細胞に比べて有意に低下することがわかった。また、放射線照射した正常マウスへの移入実験による大腸炎発症への影響を検討したところ、T567E発現細胞を移入したマウスでは体重減少が抑制された。これらの結果より、Rap1-GDPはERMのリン酸化を介してローリングの挙動を抑制しており、T細胞の大腸への移動を抑制することで大腸炎の発症を抑制していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Rap1-GDPによるローリング抑制のメカニズムとその分子機構の解明を目指してきた。本年度は、Rap1-GDPがリン酸化酵素であるLOKを活性化することで、細胞膜とF-アクチンを結び付ける働きをしているERMをリン酸化し、休止期の細胞においてtether形成を抑制することで、ローリングの挙動を抑制していることが明らかとなった。また、Rap1-GDPはローリングを抑制することでT細胞の大腸へのホーミングを抑制し、大腸炎の発症を抑制していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
Rap1-GDPによるローリング抑制のメカニズムはわかったが、Rap1欠損T細胞の大腸へのホーミングが亢進する原因として、大腸へのホーミングに重要な、α4β7のMadCAM-1への接着活性と構造変化の関係、及びRap1-GTP及びGDPが与える影響を明らかにする必要がある。インテグリンの機能を阻害せず構造変化を検討できるPA-Tagをβ7鎖へ導入し、ケモカイン存在下、非存在下及びRap1-GTPが生じないリンパ球、Rap1欠損リンパ球等を用いて、PA-Tagの発現を検討することでRap1のα4β7の構造変化への影響を明らかにする。また、Rap1欠損によって大腸炎を誘導する病原性T細胞が生成するメカニズムを明らかにするため、Rap1欠損T細胞のサイトカイン産性能や、増殖能、分化に関わるシグナル伝達経路及び転写因子誘導への影響を検討する。
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