研究課題/領域番号 |
16K19164
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
石川 裕規 沖縄科学技術大学院大学, 免疫シグナルユニット, 准教授 (30648621)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Th17細胞 / エピジェネティック制御 |
研究実績の概要 |
Th17細胞は細菌・真菌に対する生体防御および腸の恒常性維持に重要である。一方でこの細胞は自己免疫応答を主導するという有害な作用も持つ。このような多様な機能にはTh17細胞の不均一性および可塑性が関与するようである。たとえば、病原性の高いTh17細胞は自己免疫疾患の原因となるが、病原性の低いものは腸に常在し恒常性を保つと考えられている。さらに病原性Th17細胞からTh1細胞への分化転換は自己免疫疾患の誘導に重要であると示唆されている。しかしながらTh17細胞の多様性および可塑性を制御する分子メカニズムは不明な点が多い。 私たちは生体内で産生されるTh17細胞に特異的に発現するエピジェネティック因子を見出した。この因子の発現は、in vitroで誘導したTh17細胞(CD4陽性IL-17陽性細胞)においては認められず、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を発症したマウスより単離したTh17細胞において高くみられた。In vitroで誘導した各種ヘルパーT細胞(Th1、Th2、iTreg)およびEAEマウスより得たCD4陽性IL-17陰性細胞群においても、この因子の発現は検出できなかった。しかしながら、様々な免疫細胞を用いた発現解析の結果、腸管より分離したILC3において特異的にこの因子が高レベルで発現していることがわかった。これらの結果は、このエピジェネティック因子はTh17細胞とILC3細胞に特異的に発現することを示唆する。ILC3はTh17細胞と類似した特性を持つことが知られている。この因子の生理的意義を解明するために、T細胞特異的遺伝子欠損マウスを作製した。このマウスは正常で、T細胞の発生も通常通りおこることがわかった。現在このマウスを用いて当エピジェネティック因子の自己免疫疾患における役割・機能を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りターゲット因子のコンディショナルノックアウトマウスの作製に成功した。このマウスを用いて次年度に各種解析を行い、ターゲット因子の機能・役割を明らかにすることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ターゲット因子がTh17細胞の分化および疾患誘導能に必要であるか否かを検証するために、この因子を欠損したマウスにミエリンオリゴ糖タンパク(MOG)ペプチドの免疫を行い、Th17細胞に依存して起こる実験的自己免疫性脳脊髄炎症(EAE)を誘導する。その後、EAEの症状をMOG免疫後40日まで観察し、EAEの発症タイミング、最大疾患スコアだけでなく疾患の慢性化におけるZFP57の役割を評価する。ここで、ターゲット因子がEAE発症に関与することが認められた場合、所属リンパ節内Th17細胞および脳脊髄に浸潤したTh17細胞の数と割合をフローサイトメトリー解析により継時的に調べる。一方、EAE発症への寄与が全く認められない場合は、バックアッププランとしてTh17細胞が関与する他の疾患モデルにおけるターゲット因子の寄与を調べる。具体的には、腸炎および関節リウマチ誘導に対する感受性を調べる。これらに対する感受性に変化が認められた場合、上記のEAEの解析と同様にTh17細胞の解析を行う。 EAE誘導後14日のマウスの所属リンパ節よりTh17細胞を単離し、マイクロアレイ解析によりターゲット因子欠損により発現が変動する遺伝子を網羅的に調べる。またEAE誘導マウスからのTh17細胞を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)シーケンス解析を行い、この因子が結合するDNA部位を同定する。これらの解析を通して、このエピジェネティック因子のTh17細胞分化における役割および機能を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は消耗品、試薬の購入が当初予定していたよりも少なかった。しかしながら、ノックアウトマウスの解析が始まる次年度はより多くの消耗品が必要となるため、本年度の余剰金は次年度に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度作製したノックアウトマウスの表現型解析のための試薬購入に用いる。
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